2022年ファンド・投資税制①  ~10万円未満の即時償却目的の投資が規制~

2022年税制改正は全体として大人しい印象に終わりました。
しかし、投資の抜け穴が塞がれていく流れは変わらず、1点10万円未満の少額資産の大量購入による税金の繰延が不可能になりました。

「少額減価償却資産の大量購入+貸付」スキームによる節税が不可に

近年、少額の減価償却資産を大量に購入し、その全額を損金に計上する節税(利益の繰延)策が広く行われていました。
購入後は事業者等に貸付け、数年間の賃貸収入(+貸付後の売却)で投資額のほとんどを回収できることが最初から予定されているスキームです。
利益が見込まれる法人・個人は、繰延べたい利益の分だけドローンや足場、POS端末等を購入して納税を先送りすることが可能でした。

この「少額資産の購入+貸付」スキームを制限したのが今回の改正です。
具体的には、貸付用資産が下表の制度の適用対象外となりました。

  取得価額 損金
少額減価償却資産 10万円未満 全額
一括償却資産 20万円未満 3年均等償却
中小企業者等の少額特例 30万円未満
(年間300万円まで)
全額

貸付が「主要な事業」に該当すれば損金可能

上記の規制は、「主要な事業として行われる貸付」に対しては適用されません。
例えば、親会社が資産を購入及び管理し、子会社へ貸付けるケースでは、これまで通り損金算入が可能です。

一方、資産を購入した投資家が、貸付後に元々の売主等に買取らせる場合で、賃貸料と買取金額の合計が投資額の概ね90%超であるケースは、「主要な事業」に該当せず規制対象となります。

本改正は、2022年4月1日以後に取得する減価償却資産から適用されます。

2021年ファンド・投資税制③ ~社債利子の総合課税対象範囲が拡大~

同族会社の経営者等による、社債利子を利用した節税策への規制が強化されます。
法人を経由させて受取った社債利子等についても、総合課税の対象となりました。

同族会社を間接的に保有する場合でも社債利子は総合課税に

従来、社債の利子は分離課税(所得税率15.315%+住民税率5%)でした。
このことを利用して、個人が経営する同族会社に社債を発行させるスキームが流行りました。
そして、給与の代わりに社債の利子を受取っていました。
役員報酬(給与)であれば総合課税の対象となり、累進税率(所得税率5~45%+住民税率5%)が適用されるため、これを回避する目的です。

そこで2013年税制改正では、同族会社の株主が受ける一定の社債利子については、総合課税の対象とされました。
しかし、この規制の対象となったのは、同族会社の直接株主のみでした。
すなわち、法人A社の子会社B社が発行する社債を、当該法人A社の個人株主が引受けた場合、社債利子は依然として分離課税のままでした。

よって今回の改正では、間接的に同族会社を保有するケースまで総合課税の対象範囲が拡大されました。
具体的には、同族会社の判定の基礎となる法人株主と特殊関係を有する個人及びその親族等に支払われる社債利子も総合課税となります。

特殊関係には、以下が該当します。
●株式の50%超を保有する場合
●一定の議決権の50%超を有している場合
●合名会社・合資会社・合同会社の社員等の過半数を占めている場合

過去に発行された社債の利子等も対象に

本改正は、2021年4月1日以後に支払われる社債利子及び償還差益が対象となります。
過去既に発行された社債の利子についても、総合課税となりますので注意が必要です。

2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

中小企業のM&Aを支援する経営資源集約化税制が創設されました。
株式譲渡スキームで一定の要件を満たす場合、買手は取得価額の最大70%を損金に計上することができます。

中小企業による株式取得M&Aで最大70%が損金に

本税制は、事業譲渡スキームに比べて簿外債務や偶発債務等の遮断が難しい株式譲渡スキームが対象とされます。
買手企業がこれらのリスクに備えて投資損失準備金を積立てた場合、取得価額の最大70%を損金計上することが可能となります。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制の主な要件:
● 青色申告書を提出する中小企業者
 ※ 過去3年間の平均所得が15億円超の適用除外事業者を除く
● 2024年3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けること
● 株式等の取得価額が10億円以下

関連コラム:
(2020/2/29) 2020年ファンド・投資税制① ~ベンチャー投資税制で25%控除~

5年間据置後、6~10年目にかけて均等取崩

投資時に積立てた準備金は、簿外債務が発生した場合や株式を売却した場合等に取崩します。
そして5年間据置後、5年にわたって準備金残高の均等額を取崩して益金算入します。

上図の例では、据置期間中に取崩がなかった場合、6~10年目に毎期1,400万円が益金計上されます。
よって課税の繰延に過ぎないものの、足元で多額の所得が見込まれる中小企業の投資を後押しする効果が期待されます。

更に、本制度の認定を受けた中小企業者は、以下に関して優遇があります。
● 中小企業経営強化税制のD類型(経営資源集約化設備)の適用
● 所得拡大促進税制の上乗せ

なお、会計税務処理として、準備金方式と剰余金処分方式のいずれも可能です。
P/L損益への影響を回避したい場合、剰余金処分方式の選択をお薦めします。

①準備金方式
(Dr)投資有価証券   100,000,000円 (Cr)現預金            100,000,000円
   事業再編投資損失 70,000,000円    中小企業事業再編投資損失準備金 70,000,000円

②剰余金処分方式
(Dr)投資有価証券  100,000,000円 (Cr)現預金            100,000,000円
  繰越利益剰余金   70,000,000円    中小企業事業再編投資損失準備金 70,000,000円
 →別表四で7,000万円を減算

2021年ファンド・投資税制① ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2021年税制改正により延長される見通しです。
ファンドを設立する方だけでなく、一般の個人・法人にも恩恵があります。

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年ないし3年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2023年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2022年3月末まで)
0.15%
(2022年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2023年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2023年3月末まで)
0.3%
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の認定を受けた土地・建物の取得 事業譲受:1.6%
会社分割:0.4%
(2022年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2024年3月末まで)
3.0%
(2024年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2024年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2023年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2022年3月末まで)

※ 50㎡(新築賃貸マンションは40㎡)以上240㎡以下の新築または居住用中古家屋については、最大1,200万円の控除あり

登録免許税については、今回の税制改正により以下の軽減措置が延長される予定です。
● 土地売買の所有権移転登記: 2.0% →1.5%
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等が取得する一定の不動産に係る所有権移転登記: 2.0% →1.3%
● 不動産特定共同事業事業法に基づき取得する一定の不動産に係る登記
 所有権移転登記: 2.0%→1.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.3%

一方、不動産取得税に係る軽減措置については、以下の延長が行われる予定です。
【税率】
● 土地(宅地等)及び住宅用家屋への適用税率: 4.0%→3.0%
【課税標準】
● 土地(宅地等): 2分の1に軽減
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等: 5分の2に軽減(5分の3を控除)
● 不動産特定共同事業者: 2分の1に軽減

適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。
特に不動産ファンドでは物件の金額規模が大きいことから、税率がコンマ数%軽減されるだけで収支に大きな影響を与えます。
よって、軽減措置の要件や期限を正確に把握しておくことが重要です。

2020年ファンド・投資税制④ ~海外不動産の節税防止~

ファンド・投資に影響を与える税制改正の4つめは、海外不動産投資に関連する内容です。
個人が国外中古物件に投資し、多額の減価償却費により赤字を出して他の所得と通算する節税方法が塞がれました。

海外不動産の減価償却による赤字は他の所得と通算不可に

アメリカやイギリスの中古物件の特徴として、築50年以上でも需要が高く、また建物の比率が日本より高い点が挙げられます。
例えば築22年以上の木造居住用物件は4年で償却できることから、投資後4年間は多額の減価償却費を計上可能です。

これを利用した不動産所得の赤字を、個人の富裕層が事業所得や給与所得と通算して節税する方法が流行していました。
物件を売却する際には減価償却が進んだ分だけ多額の譲渡所得が生じますが、5年後以降であれば約20%の分離課税で済みます。
よって、高所得者ほど税率差による節税効果が高いとして、海外不動産投資は人気でした。

税制改正後は、国外中古物件に係る不動産所得の赤字のうち、建物の減価償却費相当額の損失は生じなかったものとみなされます。

海外不動産の税制改正

ただし物件売却時には、その生じなかったものとされた償却費相当額(上図では6,000万円)を取得価額に含めることができます。

既に保有している海外不動産にも適用

上記の改正は2021年分の所得税から適用されます。
そして、2020年以前に購入した物件であっても、不動産所得や譲渡所得の計算に影響が及びます。

その他にも、以下の留意点があります。
● 海外不動産を複数所有している場合、それぞれの建物ごとに計算する
● 黒字の海外不動産と赤字の海外不動産の所得通算は、これまで通り可能
● 耐用年数を簡便法等により計算した場合に適用(法定耐用年数で計算した場合は適用対象外)
● 個人の所得税に適用(法人は適用対象外)

今回の改正により、個人富裕層の海外不動産投資は下火になるでしょうか。
節税商品としてではなく純粋な不動産投資としてブームは続くのか、注目があつまります。

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