2016年上半期ファンド・投資環境の変化

ファンド設立に大きな影響を与える適格機関投資家等特例業務の改正法が施行されて数ヶ月経ちました。
ファンド・投資を巡る外部環境も、中国経済懸念や日銀のマイナス金利導入、イギリスのEU離脱といったイベントを受けて転換点を迎えています。

適格機関投資家等特例業務の改正法施行、ファンド設立の傾向に変化

項目 影響 内容
 ジュニアNISAの運用開始 個人 未成年者口座で年間80万円まで非課税
× 適格機関投資家等特例業務の改正法案 全般 適格機関投資家や一般投資家に規制
× 消費税還付スキームがほぼ困難に 不動産 免税・簡易課税の要件が厳格化
× 即時償却の延長の縮減 太陽光 生産性向上設備投資促進税制は50%償却or4%控除

適格機関投資家等特例業務の法改正により、個人であれば投資資産を1億円以上保有するような富裕層以外からは出資を募ることが難しくなりました。
最近の景気の不透明感もあり、特に小規模なファンドの設立に関する問合せは減少傾向にあると感じます。

一方で、法改正後もなおファンドを組成したいと、投資家様へ熱心にアプローチし、法規制もご自身で積極的に調べてこられるような本気の方からのご相談は以前より増えています。
投資家様の層も、大口や海外のプロファンド等の割合が大きくなり、法改正が結果としてファンドの安定化に貢献している印象もあります。

ファンド組成に法改正が与える影響は小さくありません。
その中でも投資家様やファンドマネージャーのニーズを最大限満たせるご提案をしていきたいと考えます。

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太陽光発電設備の即時償却(一括償却)、2016年4月以降可能な場合も

太陽光発電設備の即時償却(一括償却)は、生産性向上設備投資促進税制により2016年3月末まで可能でした。
4月以降でも「中小企業投資促進税制の上乗せ措置」の適用により、即時償却が可能な場合があります。

中小企業投資促進税制で事業用電力設備は2017年3月まで即時償却が可能

太陽光発電設備を2017年3月までに事業用として使用した場合、一定の要件を満たせば中小企業投資促進税制の上乗せ措置により即時償却が認められます。
① 特定生産性向上設備等(1%以上の生産性向上等)に該当すること
② 「指定事業」の用に供すること(電気業は対象外)
③ 中小企業者(資本金1億円以下の法人、個人事業主等)であること
例えばメーカーが工場の屋根に太陽光発電設備を設置し、工場の電力として使用するのであれば要件を満たすことになります。
太陽光設備等の即時償却・税額控除等税制

その他、従来より改正された点は以下の通りです。

● 生産性向上設備投資促進税制でも50%償却は可能
● 太陽光発電設備のうち、認定発電設備(固定価格買取制度の認定を受けた売電用設備)はグリーン投資減税の適用対象外に
● 風力発電設備はグリーン投資減税の即時償却の対象外に 

太陽光ファンドの設立や売却のご相談も依然として多く、その際にどのように償却するのかは重要なポイントです。
太陽光に関連する税制は年々複雑化が進んでおり、取得や系統連系の時期も踏まえた検討が必要です。

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投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2014年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2014年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合と特定目的会社はファンド監査が義務づけられており、監査報酬や時間数等の監査実施状況調査の結果がまとめられています。

ファンド監査報酬の水準に変化なし、投資事業有限責任組合の件数増加

2014年度(2014年4月期~2015年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。
ファンド監査報酬(2014年度)
ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約100万円、特定目的会社で約150万円とここ数年変わりません。
もっとも、最低値と最高値の乖離は大きく、投資事業有限責任組合の最高額2,800万円は近年の中でも最も大きい報酬金額です。

また、ファンド監査の数については、投資事業有限責任組合が660件(前年比+62件)と増加しています。
内訳は投資収益(売上高)10億円未満の件数が増加しており、去年までの投資環境の追い風に乗って小規模のファンドが積極的に立上げられていたと推測されます。

適格機関投資家等特例業務の改正により、今後はこのような小型ファンドの設立は減少すると予想されます。
それでも富裕層をターゲットとしたファンドや、不動産ファンドなどは引続き引合いがあり、改正後の法対応もしっかりこなしていきたいと考えます。

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適格機関投資家等特例業務、法改正の施行は2016年3月から

適格機関投資家等特例業務の法改正がいよいよ2016年3月1日から施行されます。
今後は一般投資家の範囲が投資資産を1億円以上保有する個人等に制限されます。
また、適格機関投資家がLPSのみの場合等においては特例業務が認められないケースが出てきますので注意が必要です。

一般投資家の範囲は17者に限定

適格機関投資家以外の一般投資家の範囲は、下表の通り限定されます。

一般投資家の範囲(例)
● 投資資産を1億円以上保有し、かつ証券口座開設後1年経過した個人
● 投資資産を1億円以上保有する法人
● 資本金または純資産が5千万円を超える法人
● 上場会社
● 外国法人、外国の組合型ファンド
● 金融商品取引業者(第一種金融商品取引業者・投資運用業者以外)、当該特例業者
● 特例業者の役員・使用人、親会社等・子会社等、運用委託先、投資助言者
特定目的会社
● 一定の要件を満たすベンチャー・ファンドにおいて投資に関する知識及び経験を有するもの 等

他にも国・地方公共団体、一定の公益社団法人・財団法人等、17の類型に区分されています。

適格機関投資家がLPSのみの場合等に注意

加えて、以下の2つの場合には、一定のケースにおいて特例業務による募集・運用を行うことができなくなります。
● 適格機関投資家等が投資事業有限責任組合(LPS)のみの場合
当該LPSの運用資産(借入除く)が5億円未満であれば、適格投資家として認められない

● 特例業者と密接な関係を有する者(※1)、投資について知識及び経験を有する者(※2)が出資する場合
当該密接な者及び知識・経験を有する者からの出資割合が出資総額の1/2以上であれば、特例業務として認められない

※1  当該特例業者の運用委託先、投資助言者等(特例業者の役員・使用人、親会社等は除く)
※2 上場会社等の役員やファンドの業務執行組合員(現役以外も含む)、認定経営革新等支援機関、会社の設立・資金調達・経営戦略策定等に1年以上従事した者等

特例業者の行為規制が厳格化

特例業者は、現行の虚偽説明及び損失補填の禁止に加え、下表の行為規制の遵守が必要になります。

法改正により追加された行為規制(例)
● 名義貸しの禁止
● 契約締結前の書面の交付 / 契約締結時等の書面の交付
● 適合性の原則等
● 忠実義務・善管注意義務
● 自己取引等の禁止
● 分別管理
● 運用報告書の交付 等

ファンド設立にあたり、適格機関投資家等特例業務はもっとも迅速かつリーズナブルなスキームとしてこれまで広く活用されてきました。
今後は第二種金融商品取引業者による募集、投資運用業者による運用が増えてくるものと考えます。

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2016年ファンド税制 ~株式・社債の損益通算や消費税還付スキーム~

ファンド・投資環境は2016年早々、中国経済懸念や原油安といったトピックを受けて大きな変動に見舞われています。
一方、税制改正によって2016年以降ファンドや投資にどのような影響が発生するのか、整理しました。

上場株・公社債の損益通算は可能、非上場株との損益通算は不可能に

主な内容
株式、社債 上場株式等と特定公社債(国債、上場公社債等)の損益通算が可能に
× 上場株式等と非上場株式等の損益通算が不可能に
NISA ジュニアNISA(未成年者口座で年間80万円まで非課税)の運用開始
不動産ファンド × 免税・簡易課税の要件が厳しくなり、消費税の還付が一層困難に
太陽光ファンド × 生産性向上設備投資促進税制は50%償却or4%税額控除(2016/4~2017/3月)

従来は株式、社債等の投資商品ごとに損益通算の取扱いが大きく異なっていました。
2016年以降は金融所得課税の一体化により、上場資産と非上場の資産に区分されます。
よって、例えば上場株式に係る譲渡損益や配当と、上場公社債に係る譲渡損益や利子との損益通算が可能になります。
一方、これまで可能であった上場株式と非上場株式との損益通算が不可能になります。

この他、1,000万円以上の高額資産を購入した場合、簡易課税や免税制度の適用が大きく制限されることになりました。
これにより、不動産ファンド等でマンションを購入して消費税の還付を受けるスキームは、ほとんどのケースでメリットがなくなります。

これらの改正点を全体的な視点で見ると、上場あるいは広く流通している投資商品を推奨し、プライベートや少人数で運用している資産を厳しく制限する意向を感じます。
投資の多様性より安全性を優先したいようではありますが、最終的には投資家自身がそれぞれリスクとリターンを判断することが何より重要と考えます。

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