適格機関投資家等特例業務の改正、投資家の範囲は法施行まで注視

適格機関投資家等特例業務の改正に関する法律案が成立して以降、問合せが増えています。
適格機関投資家やそれ以外の一般投資家の範囲、また施行時期などが注目されています。

一般投資家の範囲等は、今後内閣府令や政令により発表

最終的な一般投資家や適格機関投資家の範囲については、改正法律案の施行が遅くとも2016年5月であることから、今後それまでに内閣府令や政令により発表されると見込まれます。

金融審議会のワーキンググループにより2015年1月にまとめられた報告書がベースになると考えられ、これによれば一般投資家の範囲として以下の者が挙げられています。

主な一般投資家の範囲(案)
● 資本金または純資産が5千万円を超える法人
● 上場会社
● 投資資産を1億円以上保有、かつ証券口座開設後1年経過した個人
● 投資資産を3億円以上保有している法人
● ファンド運用業者、その親会社等、子会社等及びその役員・使用人・親族等
● 外国法人
● ベンチャーファンドで相応の体制が整備されている場合、上場会社の役員や上場株主 等

 

また、特例業務に出資する適格機関投資家の範囲についても、以下の提言がなされています。
投資事業有限責任組合が適格機関投資家となる場合、資産要件を設ける
例:運用資産(借入除く)5億円以上
● 適格機関投資家がファンド運用者に支配されている場合、特例業務は認めない

オフショアファンドの場合、投資家層や販売方針を個々に検討する必要

国外でファンドを設立し、投資対象も海外株式といったオフショアファンドについても最近ご相談が急増しています。
日本で国内投資家に対し勧誘や販売行為を行うのであれば、原則として金融商品取引法の規制対象となります。
よって、適格機関投資家等特例業務の届出や第二種金融商品取引業の登録が必要となるケースが多いと考えられます。

但し、実務的には具体的な投資家層や勧誘方針、販売方法に照らして検討した上で判断する必要があります。
実態のないファンドによる被害を防止すべく、規制が厳格化、複雑化する流れは今後も続くと思われます。
ファンド設立の前の段階で、法令の趣旨や省庁の意向を踏まえた適切な検討及び対応をしたいと考えます。

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オフショアファンドの配当、現地で損金算入なら課税対象に

オフショアファンド(海外に設立したファンド)から会社が配当を受けた場合、通常は日本側では課税されません。
この外国子会社配当の益金不算入という制度について、一部見直されました。

オフショアファンドの損金算入配当は日本側で課税対象に

オフショアファンドを含む外国子会社(6ヶ月以上にわたり25%以上出資している外国会社)からの日本の法人に対する配当について、原則として日本では95%が非課税とされます。
この益金不算入となる配当には優先株式に対する優先配当、そして従来は現地で損金算入された配当も対象とされていました。
LLCなどからのパススルー課税となる収益分配も該当していました。
オフショアファンドの配当
しかし平成27年度税制改正により、現地国で損金に算入された配当は、日本側で益金不算入の対象外となったため、今後は課税される見通しです。
オフショアファンド等の獲得した利益が現地国でも日本でも課税されない、という不均衡を解消することがその趣旨です。
なお、益金不算入の対象外とされた配当に係る外国源泉税等については、外国税額控除または損金算入が可能となります。

上記改正は2016年4月1日以後に開始する事業年度に受ける配当に適用されます。
但し、経過措置が設けられており、2016年4月1日時点で25%以上出資しているオフショアファンド等からの配当は、2年間は従前の通り課税されません。

LLCを始めとするオフショアファンドの設立に関するご相談はよくありますが、このような税制の見直しには注意が必要と考えます。

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2015年上半期ファンド・投資環境の変化

ファンドや投資環境にとって2015年はどのような動きが起きているか、この半年間の状況を整理しました。

適格機関投資家等特例業務の改正法案が成立

2015年上半期ファンド環境ファンドに大きな影響を与えるトピックとして、金融商品取引法の改正法案が先月成立し、いよいよ適格機関投資家等特例業務に対する規制強化が決まりました。
適格機関投資家等特例業務によりファンドを設立する場合、49名以下の一般投資家として出資できる層が制限されることになります。
6月3日の公布から1年以内に施行される見込です。

その他の項目はほとんど税制改正に関するものになります。
受取配当への課税強化国外転出時課税制度の創設等、法人・個人問わず課税ベースの拡大という流れが続きます。

一方で、NISA制度の拡充のように一般個人の投資を促進させる動きもあります。
プロ以外の私募ファンドへの投資は規制して、比較的安全なイメージの上場銘柄を推奨しているようです。
しかし、上場企業でも投資被害が頻発している昨今、ファンドも含め幅広い選択肢の中で自身でリスクを検討して投資を判断する方が、長期的に健全な投資環境を育てる上で大切なのではないかとも思います。

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匿名組合出資や非上場株式も対象、1億円以上の国外転出時課税制度

1億円以上の有価証券等を有する居住者が海外へ転居する場合等に含み益に課税される制度(国外転出時課税)が始まります。
適用開始が2015年7月1日と目前ですが、どういうケースが対象か細かい留意点がたくさんあります。

匿名組合出資や非上場株式も対象、1億円以上の国外転出時課税制度

① 非上場株や匿名組合出資も含め有価証券等1億円以上

本制度によって課税される対象は、主に以下の通りです。
● 株式(非上場株式、外国株式も含む)、国債、投資信託
● 匿名組合出資
● ストックオプション
● 未決済のデリバティブ

基準となる1億円は時価評価額のため、株高・円安時においては上場株や外貨建資産により対象となる可能性が高まります。
また、非上場株式であれば会社の規模等に応じて類似業種比準価額方式や純資産価額方式等により評価し、匿名組合出資であれば匿名組合契約が終了したとする場合の分配清算金相当額により評価します。

② 国外転出の前10年以内に日本に住んでいた期間の合計が5年超

就業ビザによる滞在であれば、その期間は国内居住期間から除かれます。
よって、転勤等で日本に滞在する外国人駐在員(エキスパット)が帰国する場合には、本制度の対象とならないことが多いと思われます。

③ 1年以上の海外転勤者、非居住者への贈与・相続等も対象

国外移住だけでなく1年以上海外へ転勤する場合、居住者が非居住者へ有価証券等を贈与する場合等も対象となります。

なお、本制度では納税猶予や、5年以内に帰国した場合における課税の取消しといった配慮措置が設けられています。
但し、この帰国後の課税の取消しについて、帰国まで引続き所有している有価証券等に限る、帰国後4ヶ月以内に更正の請求が必要等の注意点があります。

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投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2013年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2013年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合と特定目的会社はファンド監査が義務づけられており、監査報酬や時間数等の監査実施状況調査の結果がまとめられています。

ファンド監査報酬の平均はほぼ変わらず、大型案件は増加か

2013年度(2013年4月期~2014年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。
ファンド監査報酬(2013年度)
ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約100万円、特定目的会社で約150万円となり、前年よりやや減少しているものの大きくは変わらない結果となりました。
最低値と最高値に大きな乖離がある点も同じで、投資事業有限責任組合の最高額は2,380万円と多額です。

一方、ファンド監査の数は減少が見られます。
あくまで公認会計士協会に報告されている数になりますが、投資事業有限責任組合は598(前年比▲36)、特定目的会社は418(前年比▲49)という状況です。
但し、投資収益(売上高)10億円以上の大型案件については、いずれも増加しています。

直近では弊事務所へのファンド設立に関するご相談は増えており、来年2014年度の調査結果ではファンド監査の全体数も伸びるかもしれないと考えています。

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