匿名組合を利用した循環取引、監査で見過ごされたケースも

匿名組合などファンドを偽装して資金循環取引を行い、架空売上を計上した事例が相次いでいます。
2015年度の監査提言集でも同種のスキームについての指摘が数件ありました。

匿名組合の預金や運用資産は必ず確認

循環取引のスキームは下図の通りです。
匿名組合を利用した循環取引
この結果、匿名組合(ファンド)では出資を受けて預金が資産計上されますが、実際には会社に返金されているため実在しません。
また会社においては匿名組合出資金(資産)と売上が同額計上されますが、いずれも実態のない無価値の資産及び架空売上です。

これらは典型的な循環取引ですが、不正が見過ごされた要因として以下が挙げられます。
● 売上債権は見かけ上は入金されているため(④)、架空売上であると気づきにくい
● 匿名組合出資(②)について、法形式上は契約書や目論見書などの書類が整備されている
2点目については、特に匿名組合の場合、投資事業有限責任組合と異なりファンド監査が義務づけられていません。
よって、形式的な書類チェックやヒアリングでは虚偽を見抜くのは困難と考えられます。

以上から、匿名組合の口座についても銀行への残高確認や預金通帳の実査を実施する、匿名組合自体も監査の対象とするなどの提言がなされています。
現実的には会社の監査人が投資先のファンドの通帳まで要求しても、入手困難であったり関係者から難色を示されることが多いと思われます。

それでも匿名組合を設立した経緯や出資の合理性に疑義を感じた場合は、残高確認やファンド監査を検討し、資産の実在性や評価の妥当性を必ず確認すべきと考えます。

「ファンド監査」に関連するコラム:

(2015/4/12) 投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2013年度)
(2015/2/22)  投資事業有限責任組合の基準が今年も改正、ファンド監査報告書や注記に影響
(2014/8/31)  監査提言集、ファンド監査の事例も②
(2014/7/27)  監査提言集、ファンド監査の事例も
(2014/4/20) ファンド監査の新しい監査報告書様式が公表