2020年ファンド・投資税制③ ~賃貸住宅の消費税還付が不可に~

ファンド・投資に大きな影響を与える税制改正の3つめは消費税の還付に関する取扱いです。
賃貸住宅の建物部分に係る消費税の還付が認められなくなりました。

賃貸住宅の建物消費税に係る消費税還付は原則不可に

  従前 改正後
①居住用建物の消費税還付 課税売上割合のかさ上げにより還付可 課税売上割合にかかわらず原則不可
②居住用建物の範囲 賃貸契約で居住用であることが明らかな物件 構造や設備等も踏まえ、グレーなものも幅広く含む
③免税時に物件取得した後に課税事業者になった場合 免税・簡易課税の3年縛りなし 免税・簡易課税の3年縛りあり

上表①の通り、賃貸住宅(居住用賃貸建物)の消費税還付は原則不可となりました。

従前は、金の売買等により意図的に課税売上割合を上げることで還付が可能でしたが、これを防止するための改正です。

但し、物件を取得した年度の初日から3年以内に、事業用賃貸へ転用した場合や譲渡した場合、税額控除調整という救済措置があります。

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「居住用賃貸建物(賃貸住宅)」の範囲が拡大

また上表②の通り、消費税還付規制の対象となる住宅用賃貸建物の範囲が拡大されます。

従前は、賃貸契約において居住用であることが明らかにされているものが該当しました。

今後は、契約内容だけではなく、建物の構造や設備の状況等も踏まえた実態で判断します。
そして、住宅用でないことが明らかな建物(=事務所、店舗、ホテル等)以外は、原則すべて住宅用とされます。
(1,000万円未満の棚卸資産、100万円未満の固定資産等は除きます)

用途が未定であったり、現在居住用として賃貸していなくても今後貸付ける可能性があれば、基本的に居住用建物に含まれる模様です。
なお、居住用と事業用の併用物件の場合、面積や賃料等で合理的に按分することになります。

①は2020年10月1日以後、②及び③は2020年4月1日以後から適用されます。

今回の改正は、不動産ファンドを設立する方だけでなく、アパートやマンション投資をする個人投資家にも大きく影響します。
賃貸住宅の消費税還付に関するいたちごっこも、ほぼ終止符が打たれることになりそうです。

2020年上半期ファンド問合せ状況

ファンド設立に関して2020年上半期も多くのお問合せを受けました。
中でも、ベンチャー投資に関連する照会が目立ちました。

ベンチャー投資に関する問合せが半数

2020年上半期ファンド問合せ(投資対象別)

投資対象別では、ベンチャー投資のご相談が半数を占めました。
適格機関投資家等特例業務によりベンチャー企業へ出資したいというニーズが増えています。
コロナ禍で大規模な金融緩和が世界中で進む中、余剰資金が今後の成長株へ流れ込んでいる様相が見られます。

この他、再生可能エネルギーファンドのご相談が増加しました。
太陽光発電を始め、風力発電・地熱発電と多様化を見せ、再生可能エネルギーへの注目度は引続き高いことが伺えます。

一方、2019年に問合せが多くあった事業ファンドや不動産ファンドは減少しました。

2020年上半期ファンド問合せ(スキーム別)

スキーム別としては投資事業有限責任組合(LPS)が半数近くを占めています。
ベンチャー投資ファンドの増加に伴うもので、反面事業ファンドの減少により匿名組合(TK-GK)  の割合は減少しています。

この他、有料介護施設のファンドを設立したいというご相談もありました。
高齢者社会が進んで福祉の必要性が増す中、ヘルスケアファンドの組成も増えていく可能性があります。

2020年ファンド・投資税制② ~受取配当の益金不算入~

ファンド・投資に大きな影響を与える2020年税制改正の2つめは受取配当金に関する取扱いです。
出資比率が1/3超~100%未満の投資先から受ける配当について、非課税額の計算が変わります。

出資比率1/3超~100%未満の配当は、最大で4%課税

受取配当金は、投資先への出資比率によって課税される割合が異なります。
今回は、出資比率が1/3超~100%未満の投資先(関連法人株式等)からの配当に関する改正です。

出資者に借入等負債の利子がない場合、配当が全額非課税となる点は変更ありません。

一方、負債利子を支払っている場合、課税される金額の計算方法が変わります。
具体的には、今後は以下のいずれか少ない金額に対して課税されることとなります。
●配当金額の4%
●支払利子の10%

すなわち、配当金額に対して最大4%が課税される(96%が非課税となる)ことになります。

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出資比率は100%グループ全体で判定可能に

上表の通り、受取配当金の課税は出資比率によって4パターンに分かれます。
この出資比率の算出にあたり、100%グループ内の会社全体の保有株式等で計算できるようになります。
これには外国法人も含まれます。

今回の改正は、2022年4月1日以後に開始する事業年度からの適用となります。

ファンド設立に際し、配当の益金不算入を前提にスキームを設計することもあります。
税金をシミュレーションする際には押さえておきたいポイントです。

2020年ファンド・投資税制① ~ベンチャー投資税制で25%控除~

2020年にファンド・投資に大きな影響を与える税制改正に、ベンチャー投資税制(オープンイノベーション税制)の創設があります。
一定の要件を満たすベンチャー投資を行う場合、出資額の25%を投資家の所得から控除できます。

技術革新等へのベンチャー投資で25%所得控除

下図の通り、出資額1億円以上(中小企業者の場合は1千万円以上)など一定の要件を満たすベンチャー投資が対象です。

ベンチャー投資税制

※1 産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち特定事業活動に資する事業を行う会社等
※2 自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うことまたは新事業の開拓を行うこと を目指す会社等

過去にもベンチャー投資促進税制等がありました。
これは出資時に投資額の80%を損金計上できる制度ですが、あくまで損金の先取りでした。

今回の制度の特徴は、5年間保有すればトータルで125%損金計上可能という点です。
(出資時25% + 売却時100%)
また、投資事業有限責任組合を介さず直接出資することも認められています。

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また、投資家側とベンチャー企業側の双方に、技術革新等に資する活動を行っている者であることが求められます。

5年以内に売却など取消し事由に注意

本制度を適用するには、経済産業省による各種要件の確認が必要です。
そして、取消し事由に抵触すれば投資時に計上した損金の一部または全部が取消されます。

主な取消し事由
● 経済産業省大臣の証明が取消された場合
● 株式を5年以内に譲渡した場合
● 投資事業有限責任組合等の出資額割合を変更した場合(ファンド経由で投資するケース)
● 配当を受けた場合
● 投資簿価を減額した場合 等

2020年4月~2022年3月までの2年間の限定措置として創設された本制度。
ベンチャー投資活性化の呼び水になるか、注目が集まります。

2019年下半期ファンド問合せ状況

ファンドの設立に関して2019年下半期も多くのお問合せを受けました。
中でも、事業ファンドに関連する照会が目立ちました。

事業ファンドに関する問合せが増加

ファンドの投資対象別では、上場株投資ファンドと事業ファンドの件数が同率でトップとなりました。
世界的な株高を追い風に、上場株式をファンドで運用したいという要望は根強いといえます。

一方、事業ファンドは美容院、倉庫、映画など多方面にわたります。
ビジネスオーナーが店舗拡大のための資金調達を目的とするファンドや、海外で巡り合ったコンテンツを日本にも導入するという展望を持ったファンドなど、それぞれに特殊性が見られます。

上場株ファンドのスキームとしては、個人投資家にとって税務上有利な投資事業有限責任組合(LPS)が選好されます。

これに対し、事業ファンドに関しては、投資対象や投資家層によってケースバイケースです。
また、事業ファンドの組成にあたっては、第二種金融商品取引業のライセンスが鍵になります。
さらに、運用財産に不動産が絡む場合、不動産特定共同事業法の検討も必要になります。

ファンドの設立に関するご相談は、年々多様性を増していくのを感じます。
投資家・事業家を問わず、資金調達手段として認知が広がってきたことが考えられます。
投資対象、投資家層、運用者の属性をしっかり把握した上で組成を進めることが重要になります。

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