適格機関投資家等特例業務、規制強化は一時中止に

今月8月1日から施行予定とされていた適格機関投資家等特例業務の見直し案ですが、一旦中止となったようです。
ただし、廃案ではなく引続き閣議決定にかけようとする動きはあると聞こえており、何らかのファンド規制が行われる可能性は依然残されていると思われます。

ファンド監査への影響は?

ここで仮に、あるファンドが法令や規制に反して設立されたり、募集・運用を行っていたとします。
この場合ファンド監査において、決算書類が適正であれば法規に反していても問題なしといえるでしょうか?
法規違反はファンド監査では・・・?
たしかに監査報告書では、監査対象は「財務諸表等、・・・(会計に関する部分に限る)」と記載され、実際ファンド監査も法律よりは会計を中心に行います。
しかし、例えば投資事業有限責任組合の監査報告書であれば「投資事業有限責任組合契約に関する法律第8条第2項の規定に基づき・・・」と記載されるように、ファンド監査の根拠が法令等である以上、法規を無視して会計だけをチェックしていればいいとはいえないものと考えられます。

また、ファンド設立や運用に関する規制に違反した場合、金融庁から認可取消しといった処分もあり得ます。
よって、ファンドの将来継続性に影響を及ぼす法規違反を検出したのであれば、投資家に注意を喚起する必要があるでしょう。

今回のファンド規制の行く末は私たちにとっても非常に関心が大きく、引続き注視したいと思います。

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監査提言集、ファンド監査の事例も

2014年監査提言集が先日公認会計士協会より公表されました。
業種ごとのリスクや不適切な取引に対しどのように監査手続を実施すべきか、実際の事案に基づき整理されています。
この監査提言集は毎年7月頃公表されており、2013年や2012年にはファンド監査についても言及しています。

ファンドの預金の実在性が問題に

監査提言集で取上げられていたのは、ファンドを利用して循環取引を行っていた事例です。
ファンドにいったん資金を流してすぐ回収、と経済的には何の効果もない取引を行い、決算書に実態のない投資(資産)と売上を計上するというものでした。
ファンド監査で資産の実在性を

ファンドにおいては、出資金が貸借対照表に預金として計上されたままであり、預金は実際には会社に返還されファンドからなくなっていたことに気づけば架空取引は検出できたと考えられます。
以上から提言集でも、ファンド監査において預金通帳のレビューや銀行への残高確認により預金の実在性を確かめるべきだったとしています。

預金通帳のレビューや残高確認は監査の基礎であり、だからこそ手を抜いてはいけない必須手続であると再認識しました。

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ファンド監査の新しい監査報告書様式が公表②

ファンド監査など特別目的の決算書に対する監査について、Q&Aもリリースされました。
前回のコラムでご紹介した新しい監査報告書について詳しく解説しています。

ファンド監査は特別目的の決算書に対する準拠性監査に分類

前回は決算書等が一般目的か特別目的か、監査が適正性か準拠性かといったトピックが出てきて、ピンとこない点もあったかと思います。
これを具体例で整理すれば、下表の通りになります(Q&AのQ5,8参照)。
ファンド監査は特別目的の決算書に対する準拠性監査
具体的な例として見ることで、多少はイメージできたのではないかと思われます。
ファンド監査は、特別目的の枠組で作成される決算書類に対する、準拠性監査に該当することが多いと考えられます。

表の4分類のどれに該当したとしても、監査手続自体は変わることはないといえます(Q11,13参照)。
すなわち、資産・負債・損益等を適切に評価し、決算書に重要な虚偽表示がないか確認する点は共通しています。
但し、監査報告書上で意見を表明するにあたり、前回取上げたポイント①~③を検討・明記することになります。

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ファンド監査の新しい監査報告書様式が公表

ファンド監査や年金監査といった特別目的の決算書等に対する監査について、新しい監査報告書の様式が公表されました。
公認会計士協会のHPで新様式を見ることができます。

匿名組合の監査報告書が例示

以前コラムで、目的や利用者が限定された決算書等について、特別目的の財務報告として監査のアプローチを区分する方針を取上げました。
ファンド監査はこれに該当することが多いと考えられ、今回公表された監査基準では匿名組合の監査報告書が例示として記載されています。
従来の監査報告書と比較すると、いくつかの点で違いが見られます。

ポイント①特別目的か一般目的か
決算書等が特別目的の場合、監査意見の下に以下のような記載がなされます。
「匿名組合出資者に提出するために営業者により作成されており、それ以外の目的には適合しないことがある。」

ポイント②準拠性監査か適正性監査か
特別目的の監査においては、特定の規則や契約に準拠しているか検討する「準拠性監査」となることが多いと思われます。
この場合、監査意見は「匿名組合契約~条の取決めに準拠して作成されているものと認める。」と表明するに留まります。
一方、従来の適正性監査であれば、この先に「すべての重要な点において適正に作成されている」といった意見が続きます。

ポイント③監査報告書の配布や利用が制限されているか
配布や利用に制限がある場合、監査意見の下に以下のような記載がなされます。
「営業者と匿名組合出資者のみを利用者として想定しており、営業者及び匿名組合出資者以外に配布及び利用されるべきものではない。」

匿名組合や投資事業有限責任組合といったファンド監査について、この新しい様式の監査報告書を今月から早期適用することが可能です。

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投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2012年度)

ファンド監査に対する報酬(監査費用)はいくらくらいでしょうか?
投資事業有限責任組合特定目的会社といったスキームによって異なり、また運用資産や投資規模等にもよりけりですが、公認会計士協会が監査実施状況の調査結果を公表しています。

ファンド監査の報酬は数万円~数百万円以上とバラつき

SPC・組合の中では、監査が義務づけられる投資事業有限責任組合及び特定目的会社が調査対象となっています。
2012年度(2012年4月期~2013年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド(投資事業有限責任組合、特定目的会社)の監査報酬

投資事業有限責任組合は約100万円、特定目的会社は約150万円が全体の平均値でした。
但し、監査費用の最低値と最高値の幅は極めて広いという状況がわかります。
投資収益(売上高)10億円未満で見た場合、投資事業有限責任組合は5万円~1,320万円、特定目的会社は20万円~480万円といずれも大きく乖離しています。

この乖離の原因はファンドの性質・規模等の個別性に加え、監査する側の体制によるところもあるかと考えます。
例えば、大企業の上場監査をメインとしていたり、公会計から国際監査まで全てカバーしているような監査法人の場合、ファンドの実務経験のない会計士が関与し、その非効率が監査費用の増加へつながるケースも見られます。

悠和会計事務所は、ファンド監査に特化することで、今後も必要かつ十分なサービスをリーズナブルな監査報酬により提供してゆきたいと考えます。

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