2014年上半期ファンド・投資環境の変化

ファンドや投資を取巻く環境は、今年に入って有利な方向にも不利な方向にも大きく動いているように思われます。
前回のコラムでは、規制強化案が施行された場合、特に個人投資家層に向けたファンド設立や運用が難しくなることを取上げました。
この点も含め、この上半期の変化について法令や税制を中心に整理してみます。

適格機関投資家等特例業務の見直しは大きな痛手か

2014年上半期ファンド環境

投資促進税制の創設エンジェル税制の拡充案といった、ベンチャーファンドへの投資を税制面からサポートしようとする動きが見られます。
またファンドとは直接関係ありませんが、NISAの創設も大きな話題となりました。

しかし、適格機関投資家等特例業務の見直し案が8月から適用された場合、投資資産が1億円未満の個人投資家にとってファンドへの投資のハードルは相当上がることになると考えられます。
ようやく経済環境が好転の兆しを見せ投資への機運も高まってきている中で、個人や法人の投資意欲が減退しないよう私たちもファンド設立、監査、会計といった面からより一層サポートしてゆきたいと思います。

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適格機関投資家等特例業務の見直し、ファンド設立のハードル上昇へ

「適格機関投資家等特例業務の見直し案」が先月5月に金融庁から公表されました。
ファンド設立に大きな影響を与える改正として波紋を呼んでいます。

個人は資産1億円以上の投資家に限定

ファンドを設立し運用するには、第二種金融商品取引業や投資運用業への登録が必要になります。
但し、適格機関投資家等特例業務を適用すれば、これらの登録がなくてもファンド設立が可能でした。

しかしこの特例により設立・運用されるファンドについて、2014年8月1日以降は購入できるのが以下に限定されることになる模様です。
● 資本金が5千万円を超える株式会社、上場会社
● 投資資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人
● ファンド運用者、及びその役員・使用人・親会社
● 外国法人 等

こうした規制案の背景には、昨今ファンドの悪用により一般投資家が被害に遭う事例が後を絶たないことから、ファンドの販売先を一定の投資判断能力を有する者に限定すべきとの考えがあります。

一方で、独立系のファンドマネージャーがファンドを組成する場合、実績面から当初は必然的に個人投資家がターゲットとなりがちです。
今回の規制強化は、こうした個人中心のファンドにとって厳しい制約と考えられます。

独立系ファンド含め、投資の多様性や選択肢の広さは、社会全体にとって非常に大切なことであると思います。
今後はファンドオブファンズの形で代替されるのか影響が注視されていますが、私たち悠和会計事務所も投資機会の向上に尽力したいと考えます。

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特定投資事業有限責任組合(再生ファンド)

今年の税制改正でベンチャーファンドの投資促進策として注目される投資事業有限責任組合
平成25年度税制改正では企業再生税制の中で登場しています。

再生ファンドによる債務免除でも税制優遇可能に

事業再生において「一定の私的整理」に該当すれば、債務免除が行われた場合、資産の評価損益の計上及び期限切れ欠損金の優先控除が適用されます。
これにより、再生企業において債務免除益課税を回避することが可能となっています。

但し、この「一定の私的整理」の要件の1つに、「2以上の金融機関等が債務免除等を行うこと」が挙げられています。
事業再生においては、下位の銀行が再生ファンドに債権を売却することがありますが、この結果メインバンク1行と再生ファンドしか残らず、その後で債務免除を行っても「2以上の金融機関等による債務免除」に該当しないという問題がありました。

そこで、債権が再生計画によって投資事業有限責任組合である再生ファンドに譲渡された上で債務免除が行われた場合も、上記税制優遇を受けられるようになりました(措令39の28の2 )。
再生ファンドによる債務免除

再生ファンドによる債務免除が税制優遇対象となるためには、以下の要件を充たす必要があります。
● 再生ファンドが特定投資事業有限責任組合として、内閣総理大臣及び経済産業大臣から指定を受けていること
● 平成25年4月1日~28年3月31日までの間に債務免除等が行われること

既に20件程度の再生ファンドが特定投資事業有限責任組合として指定を受けており、円滑な事業再生の促進が期待されています。

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定額法に統一、ファンドにも影響?

ファンドの多くは不動産や設備に投資するため、減価償却費は無視できません。
先月政府税制調査会より、減価償却制度について定額法に統一する方向で大方合意したとの発表がありました。
来月6月までに政府税調が提示する法人税改革案の中に盛込まれる見通しです。

ファンド + オペレーティング・リースのスキームに打撃?

機械装置や車両について、現状では定率法と定額法が認められており、定率法の場合は定額法の2.0倍の償却率が適用されます。

この定率法の「資産購入当初の償却負担が大きい」という性質を利用し、ファンドとオペレーティング・リースを組合わせて節税を図るスキームがあります。
簡単に言えば、ファンドが高額の航空機や船舶を購入し、定率法償却費や借入利息によってファンド設立当初に損失が出るよう設計して、当該損失を投資家が取込むというスキームです。
本業で多額の所得が予想される投資家にとっては、節税(課税の繰延)が可能となります。

今後定率法が認められなくなった場合、ファンド設立期に償却費による損失が見込めなくなるため、このスキームのメリットが低下することになります。

定額法への統一時期は未定

定額法への一本化案を含む法人税改革案がどこまで実現するかについては、法人税率の引下げに関する方針に左右されると考えられます。
来年度税制改正に向けて、具体的にどのように反映されるか注視したいと思います。

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ファンドの名前

ファンド設立・組成を検討されている方達から、「ファンドの名前はどのように決めたらいいですか?」というご質問を受けることがたまにあります。
そこで、実際にどのようなパターンが多いか整理したいと思います。

1.ファンドマネージャーの会社名 + ●号
「悠和3号投資事業有限責任組合」、「YUWA5号投資ファンド」というパターンは多いように思います。

2.地名を入れる
「丸の内オフィスファンド」、「銀座プロパティ」のように地名をファンド名の一部に入れるケースもよくあります。

3.花や星、植物シリーズ
「ローズ」「ガーベラ」といった花シリーズ、「アルタイル」「パンドラ」といった星シリーズで統一するケースも見られます。

その他にも、投資のコンセプトや運用方針を反映するパターン(「~小型成長株ファンド」)、社長の個人名を英語にする場合(山田さんなら「マウンテンフィールド2号」)など、ある程度自由に名称を決められているようです。
但し、他のファンドや会社と誤認・混同のおそれがないよう注意が必要と考えます。

ちなみに、ファンドのロゴについても一般の会社と同様に作成することもあるようです。
YUWA_Logo_greenYUWA_Logo_blueYUWA_Logo_yellowYUWA_Logo_orange

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