匿名組合の源泉徴収

ファンドの中でも匿名組合の場合、源泉徴収に関して投資事業有限責任組合のケースとは異なる点があります。
源泉徴収はファンドの資金繰り等に大きな影響を及ぼすため、取上げたいと思います。

匿名組合の利益配当には20%の源泉徴収

匿名組合で生じた利益を投資家に分配する場合、営業者は20.42%を源泉徴収します(所法161条⑫,210条)。
これは組合員が日本人・国内企業でも、非居住者等(非居住者または外国法人)の場合でも同様です。
この点、組合員が一定の非居住者等の場合を除き源泉徴収が不要であった投資事業有限責任組合とは大きく異なります。

匿名組合の源泉徴収の注意点
● 翌月10日までに税務署に納付(半年毎に納付できる特例(所法216条)の適用はなし)
● 営業者は税務署及び投資家に対し、支払調書を提出(所法225条③)
● 非居住者等の源泉免除規定(所法180条,214条)は、匿名組合の利益分配には適用されない

匿名組合に対する賃料等については源泉不要

前回のコラムで、投資事業有限責任組合において、組合員に非居住者等がいる場合は、事業会社が組合に賃料を支払うといった際に源泉徴収が必要になることを記載しました。
匿名組合においては、同様のケースで組合員に非居住者等がいても、賃料等はあくまで営業者に対する支払と位置付けられます。
従って、匿名組合に不動産の賃料や購入代金を支払う場合には、源泉徴収は不要となります。

「源泉徴収」に関連するコラム:

(2014/3/16) 投資事業有限責任組合の源泉徴収②
(2014/3/9) 投資事業有限責任組合の源泉徴収①

「匿名組合」に関連するコラム:

(2014/3/2) 匿名組合の利益計算が否認された事例

投資事業有限責任組合の源泉徴収②

前回のコラムでは、組合の利益分配時における源泉徴収をトピックとしました。
投資事業有限責任組合や任意組合では、原則として源泉徴収は不要ですが、組合員が非居住者等(非居住者または外国法人)の場合は源泉が必要となる規定があります。

今日は、一般の会社等が組合に対して賃料や報酬を支払う場合の源泉徴収について取上げたいと思います。

組合員に外国人がいる場合の組合に対する賃料等に注意

不動産を賃借したり購入する場合、その所有者が非居住者等であれば、借手や買主は支払時に源泉徴収が必要になります。
●不動産の賃借…20.42% (個人が住宅として使用する場合は源泉不要)
●土地等の購入…10.21% (1億円以下の物件で個人が住宅として使用する場合は源泉不要)

これが、不動産の賃貸人や売主が投資事業有限責任組合の場合にはどうなるでしょうか?
組合の構成員に非居住者等がいるのであれば、当該非居住者等へ賃料や購入代金を直接支払うのと同じ取扱になるため、やはり源泉徴収義務が生じます。
投資事業有限責任組合の源泉徴収

非居住者等の確認は支払者側が行う必要

この源泉徴収義務は支払者側が負います。
よって、例えば会社が投資事業有限責任組合から不動産を借りる場合は、組合員に非居住者等がいるか、また免除証明書の有無についても確認することが重要になります。
なお、非居住者等の源泉所得税は翌月10日までに納付します。
給与等と異なり半年毎に納付できる特例(所法216条)の適用は受けられないため、注意が必要です。

関連コラム:
(2014/3/9) 投資事業有限責任組合の源泉徴収①
(2014/3/23) 匿名組合の源泉徴収

投資事業有限責任組合の源泉徴収①

ファンドでは、源泉徴収が資金繰りや投資家の利回りを左右することがあり、これをどのように処理するかが重要なポイントになります。
今回は、投資事業有限責任組合の源泉徴収について考えたいと思います。

投資事業有限責任組合の利益分配に対する源泉徴収は原則不要

投資事業有限責任組合の場合、個々の組合員が損益の帰属主体であり、組合はその集合と位置付けられます。
よって、「誰かから誰かへ分配を行う」という考え方ではないため、原則として組合利益の分配金に対して源泉徴収はありません。

但し、組合員が非居住者等(非居住者または外国法人)で恒久的施設を有する場合、20%の源泉徴収が必要になります。
源泉徴収の時期は金銭を交付した日であり、金銭の交付がない場合には期末から2ヶ月となります。
この場合であっても、一定の要件を充たした組合員は、所轄税務署長より免除証明書の交付を受け、それを提示することで源泉徴収は免除されます。

なお、民法上の任意組合や有限責任組合(LLP)についても、基本的に投資事業有限責任組合と同様と考えますが、匿名組合の源泉徴収については取扱が異なるため、この点はまた別の機会に取上げたいと思います。

関連コラム:
(2014/3/16) 投資事業有限責任組合の源泉徴収②
(2014/3/23) 匿名組合の源泉徴収

匿名組合の利益計算が否認された事例

ファンドの中でも匿名組合は、組合員への配当によりパススルー課税と同等の効果を得られるとしてよく活用されるスキームです。
今日は、その計算を一部認めないとされた裁決事例(国税不服審判所・13年3月)をご紹介します。

本件匿名組合の概要

この事例では、07年1月に契約締結したP匿名組合と、その前年の06年12月に終了したK匿名組合が登場します。
本件を単純化すれば、営業者は、K匿名組合において生じた事業損失及び管理費用を、P匿名組合の利益から控除しました。
一方、裁決ではこれら2つの組合は別個のものであるとされ、上記損失及び管理費用をP匿名組合の利益から控除することは認められませんでした。

匿名組合の事例

匿名組合の契約内容もポイントに

営業者は、P匿名組合はK匿名組合の自動更新条項に従って更新されたものであり、2つの組合は実質的に同一と主張しました。
しかし、P匿名組合とK匿名組合とは契約内容(事業内容や解約条項)が同一とはいえず、またK匿名組合の運用報告書には出資金の返還額に関する記載等もあり、これら2つの組合は形式的にも実質的にも別個のものと判断されました。
更に、P匿名組合の管理費用についても、P匿名組合の利益から控除することはできないとされており、契約書における利益計算上、当該管理費用を控除する旨の規定がないことが指摘されています。

匿名組合における利益計算の適正性は、このように契約内容や運用報告等も材料としながら形式・実態の両面から判断されています。
ファンド設立や清算の際には、こういった点も慎重に検討する必要があると考えます。

「ファンド設立」に関連するコラム:

(2014/2/2) ファンド設立における不動産取得税(5分の3控除)

ファンド監査に関するQ&Aの改正

ファンド監査に関してもう1件、日本公認会計士協会から「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」の改正も公表されました。

近年の会計基準改正にファンド監査指針も対応

近年、SPC・組合に関する会計基準について、多くの改正が行われました。
用語の定義から会計処理、開示方法まで見直し・新設が行われたことを受け、ファンド監査の指針もアップデートされたということです。

【主な会計基準等】
連結財務諸表に関する会計基準
一定の特別目的会社に係る開示に関する適用指針
特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針について のQ&A(不動産流動化実務指針Q&A)

特別目的会社の連結

SPCや組合の監査を行う上で、大きく影響を受けた会計処理の改正として記憶に残っているのは、特別目的会社の連結規定についてです。
出資者にとってSPCが連結対象か判断する際、連結除外推定(財務諸表等規則8条7項)が適用されなくなったため、出資者がSPCを新たに連結対象とするケースが生じました。

140223特別目的会社の連結

特別目的会社の連結については、現在もIFRSの支配力基準等を視野に入れ検討を重ねているとのことで、今後もファンド監査や会計基準の改正が予想されます。

「ファンド監査」に関連するコラム:

(2014/2/16) ファンド監査の意見表明に変更?
(2014/2/9) 投資事業有限責任組合の監査指針を改正

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