2022年ファンド・投資環境の変化

2022年のファンド・投資環境は、ロシアのウクライナ侵攻によるショックに揺れた一年となりました。
また、アメリカを始めとする諸外国はインフレを抑制すべく政策金利の引き上げに踏み切り、日本も大きな転換点を迎えたようであります。

一方、新型コロナウィルスに関しては、未だ気を緩めることはできないものの、日常生活や経済活動は正常化へ向けて動いているのを感じます。

こうした中、ファンドについても、組成を積極的に進める意向と慎重に検討する姿勢の両方が見られました。

富裕層向けの節税対策を封じ込め

2022年改正項目 影響 内容
オープンイノベーション促進税制を延長 株式 ベンチャー投資の25%所得控除を2年延長
不動産取得税、登録免許税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
受取配当金の益金不算入規定の判定 株式 出資比率の判定は100%支配関係にあるグループ全体ベースで
× 即時償却目的の少額資産投資を規制 全般 「10万円未満資産の大量購入+貸付」スキームによる税金繰延が不可に
× 配当が総合課税となる大株主の範囲拡大 株式 個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で総合課税に

2022年税制改正の中で大きな反響を呼んだのは、少額資産の大量購入による節税に対する規制でした。
10万円未満の減価償却資産は即時償却が可能であることから、従前は黒字企業がドローンや足場等を大量に購入して税金の繰延を図るケースがよく見られました。
今後は少額資産を購入後に貸付ける場合、原則として即時償却ができなくなります。

この他、配当所得が総合課税となる大口株主の範囲が拡大されました。
3%ルールは、個人とその同族会社の持株割合を合算して判定することとなります。

他方、オープンイノベーション促進税制、不動産取得税や登録免許税の軽減といった従来の優遇措置は延長されました。

2023年改正はNISAの拡充に期待

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● NISA制度の拡充・恒久化
● スタートアップへの再投資に係るキャピタルゲイン非課税制度の創設
● コインランドリーやマイニングマシンへの投資を税制優遇対象から除外

中でも岸田政権が掲げる資産所得倍増計画の目玉として、NISAの拡充が話題です。
国民の将来の生活を豊かにする制度となるよう期待しています。

2022年ファンド・投資税制③  ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2022年税制改正により延長されました。
一般の個人・法人からファンドまで広く恩恵を受けることができます。

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2023年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2024年3月末まで)
0.15%
(2024年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2023年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2023年3月末まで)
0.3%
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の認定を受けた土地・建物の取得 事業譲受:1.6%
合  併:0.2%
会社分割:0.4%
(2024年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2024年3月末まで)
3.0%
(2024年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2024年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2023年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2024年3月末まで)

※ 50㎡(新築賃貸マンションは40㎡)以上240㎡以下の新築または居住用中古家屋については、最大1,200万円の控除あり

登録免許税については、今回の税制改正により以下の軽減措置が2年延長されました。
● 個人の住宅用家屋(50㎡以上の新築または一定の中古)
 所有権移転登記: 2.0%→0.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.15%
● 認定経営力向上計画に基づき行う所有権取得
 事業譲受:1.6%
 合併:0.2%
 会社分割:0.4%

また、不動産取得税に係る軽減措置についても、以下の延長が行われました。
● 認定経営力向上計画に基づき行われた事業譲受: 6分の5に軽減(6分の1を控除)

適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。

特定目的会社(TMK)や不動産特定共同事業といった不動産ファンドの軽減措置は2023年3月末までとなっています。
これらに関しても延長されることを期待しています。

投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2020年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2020年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数が前年度比で1割以上増加しました。

投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに大幅増加

2020年度(2020年4月期~2021年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬(2020年度)

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約120万円、特定目的会社で約160万円と、
いずれも前年比で若干増加しています。

そしてファンド監査の件数は、投資事業有限責任組合が1,133件(前年比+147件)と、ついに1,000件を突破しました。
また、特定目的会社も518件(前年比+82件)と2割近く増加しています。

新型コロナウィルス感染症の影響は依然として懸念されますが、経済活動は正常化に向けて動き始めています。
足元では入国規制緩和が進み、海外投資家による日本の不動産への投資も再開されています。
ファンドの設立も一層増えていくことが予想されます。

2022年ファンド・投資税制② ~配当が総合課税となる大口株主の範囲拡大~

個人が上場会社から受取る配当金は通常20.315%の源泉分離課税ですが、持株割合3%以上の大口株主の場合は総合課税となります。
今回の税制改正で、個人とその同族会社の持株割合を合算して3%の判定を行うこととなりました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

持株割合3%未満の上場会社から個人株主が配当を受取る場合、20.315%の源泉分離課税となります。
ここで、持株割合が単独で3%未満の個人株主が、その資産管理会社等を通じて3%以上出資しているケースが散見されました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

このような場合にまで分離課税を認めるのは適当ではないため、個人とその個人が50%超を保有する同族会社の持株数を合算して3%の判定を行うこととされました。
これにより、上図のケースでは個人株主が受取る配当金は総合課税(税率は最大55%)となり、上場株式の譲渡損失との通算も認められなくなります。

本改正は、2023年10月1日以後に支払われる上場株式の配当について適用されます。

またこれに関連して、上場会社は持株割合1%以上となる個人株主の情報を、配当金の支払確定日から1ヶ月以内に税務署長に提出することが義務がづけられます。

出資比率1/3超~100%未満の配当は、最大で4%課税

法人が受取る配当金に係る2つの改正は、予定通り2022年4月1日から適用されます。
関連コラム:
(2020/3/31)  2020年ファンド・投資税制② ~受取配当の益金不算入~

出資比率が1/3超~100%未満の投資先(関連法人株式等)からの配当について、以下のいずれか少ない金額に対して課税されることとなりました。
●配当金額の4%
●支払利子の10%
これにより、関連法人株式等からの配当に対して最大4%が課税される点に留意が必要です。

また、100%支配関係にあるグループ会社全体で出資比率を判定できるようになりました。
よって、益金不算入となる割合が上がる可能性があります。

なお、100%子会社株式及び関連法人株式等に係る配当について、2023年10月1日以後は源泉徴収が不要となります。

2022年ファンド・投資税制①  ~10万円未満の即時償却目的の投資が規制~

2022年税制改正は全体として大人しい印象に終わりました。
しかし、投資の抜け穴が塞がれていく流れは変わらず、1点10万円未満の少額資産の大量購入による税金の繰延が不可能になりました。

「少額減価償却資産の大量購入+貸付」スキームによる節税が不可に

近年、少額の減価償却資産を大量に購入し、その全額を損金に計上する節税(利益の繰延)策が広く行われていました。
購入後は事業者等に貸付け、数年間の賃貸収入(+貸付後の売却)で投資額のほとんどを回収できることが最初から予定されているスキームです。
利益が見込まれる法人・個人は、繰延べたい利益の分だけドローンや足場、POS端末等を購入して納税を先送りすることが可能でした。

この「少額資産の購入+貸付」スキームを制限したのが今回の改正です。
具体的には、貸付用資産が下表の制度の適用対象外となりました。

  取得価額 損金
少額減価償却資産 10万円未満 全額
一括償却資産 20万円未満 3年均等償却
中小企業者等の少額特例 30万円未満
(年間300万円まで)
全額

貸付が「主要な事業」に該当すれば損金可能

上記の規制は、「主要な事業として行われる貸付」に対しては適用されません。
例えば、親会社が資産を購入及び管理し、子会社へ貸付けるケースでは、これまで通り損金算入が可能です。

一方、資産を購入した投資家が、貸付後に元々の売主等に買取らせる場合で、賃貸料と買取金額の合計が投資額の概ね90%超であるケースは、「主要な事業」に該当せず規制対象となります。

本改正は、2022年4月1日以後に取得する減価償却資産から適用されます。

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