投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2022年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2022年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数及び平均報酬額の増加が続いています。

投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数及び報酬水準が伸びる

2022年度(2022年4月期~2023年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬(2022年度)

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合が約130万円、特定目的会社が約180万円と、いずれも前年比で増加しています。

またファンド監査の件数も、投資事業有限責任組合が1,410件(前年比+127件)、特定目的会社も694件(前年比+88件)といずれも増加しています。
一方、収益規模10億円以上の投資事業有限責任組合については、99件(前年比▲36件)と減少しました。

監査報酬の増加要因として、一部の大型案件が平均値を押し上げている可能性もありますが、それよりもインフレによる監査コストの上昇が影響しているように思われます。
多くの業種と同様、監査業界でも大手・中小問わず人手不足が深刻化しています。
監査報酬の増加傾向も当面続く可能性があります。

2024年ファンド・投資税制②  ~譲渡制限ある暗号資産が時価評価の対象外に~

法人がビットコイン等の暗号資産を所有する場合、原則として期末に時価評価する必要があります。
2024年税制改正では、例外的に時価評価を適用除外とできる暗号資産の範囲が拡大されました。
暗号資産に一定の譲渡制限を付すことで、取得原価のままとすることが可能となります。

移転制限で時価評価適用除外に

ビットコイン等の市場性ある暗号資産を個人で所有すれば、売却時に雑所得として所得税・住民税が最大55%課せられます。
法人の場合は売却益に対する税率は約30%と有利ですが、売却せずに保有し続ければ期末に時価評価する必要があります。
すなわち、長期保有するつもりでも、値上がりが続けば期末で含み益に課税されてしまいます。

これではブロックチェーン技術の革新や活用が阻害され、有望なプロジェクトの海外流出を招きます。
そこで、2023年税制改正では、一定の要件を満たす自己発行暗号資産は時価評価の対象外とされました。

更に、2024年税制改正によって、時価評価の対象外となる範囲が第三者が発行した暗号資産まで拡大されました。
ビットコインやイーサリアムでも、以下の要件を満たせば取得価額による評価が可能となります。
① 信託または技術的措置によって、移転(譲渡)が概ね1年以上制限されていること
② 当該移転制限について、交換業者に通知して暗号資産取引業協会のHPで公表させること

移転制限で時価評価適用除外に

上記①の技術的措置について、いくつかの暗号資産交換業者が移転制限サービスを提供しています。
一定金額(例えば1,000万円)以上などの申込条件を設けている交換業者も見られます。
また、口座開設から移転制限措置の完了まで数週間以上かかることもあります。
よって、特に期末日が近い場合、よく条件を確認して早めに手続を行う必要があります。

なお、移転制限によって税務上は特定譲渡制限付暗号資産となりますが、その際に区分変更によるみなし譲渡が適用されます。
従って、例えば期首から保有している暗号資産が期末にかけて値上がりしている場合、本手続を行った時点で期首からの含み益については課税されます。
その後、移転制限を継続する限りは、特定譲渡制限付暗号資産として期末の時価評価は適用除外となります。
但し、移転制限期間が終われば、その時点でやはり区分変更によるみなし譲渡となるでしょう。

移転制限による期末時価評価の適用除外が可能になるのは、2024年4月以後に終了する事業年度からとなります。

2024年ファンド・投資税制①  ~事業再編投資損失準備金の損金割合が最大100%に~

2021年税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度(経営資源集約化税制)が、今回の税制改正で延長・拡充されました。
一定の要件を満たせば、株式購入額の最大100%を損金算入することが可能です。

中小企業による株式取得M&Aで最大100%が損金に

中小企業事業再編投資損失準備金は、株式購入スキームにおいてのみ適用されます。
買手企業が簿外リスク等に備えて投資損失準備金を積立てた場合、従前は取得価額の最大70%を損金計上することが可能でした。

関連コラム:
(2021/6/28) 2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

今回の改正により以下の通り見直されます。
● 2027年3月31日まで3年間延長
● 表明保証保険契約を締結している場合は適用不可
● 拡充枠の創設(下表参照)

  現行枠 拡充枠
(現行枠と併用可)
積立金額の上限
(損金割合)
株式購入価額の70% 初回M&A:株式購入価額の90%
2回目以降:株式購入価額の100%
対象株式 10億円以下 1億円~100億円
適用対象者 中小企業者 中小企業者または中堅企業で
過去5年以内にM&Aを行った者
認定を受ける計画 経営力向上計画
(中小企業等経営強化法)
特別事業再編計画
(産業競争力強化法)
据置期間 5年 10年

オープンイノベーション促進税制も2026年3月まで延長

なお、株式投資を支援する税制として、オープンイノベーション促進税制もあります。

関連コラム:
(2023/7/31) 2023年ファンド・投資税制②  ~M&Aでも25%所得控除が可能に~

一定の要件を満たす株式投資に対し、取得価額の25%を所得控除することができる制度です。
中小企業事業再編投資損失準備金制度と異なり、新規出資(増資引受)にも適用されます。
こちらも2026年3月31日まで延長されており、場面によって両制度を上手に選択して活用することが望ましいと考えます。

2023年ファンド・投資環境の変化

2023年のファンド・投資環境は、ロシアとウクライナ、イスラエルといった戦争や、各国の物価高騰と金利政策に揺れながらも堅調に推移したと言えそうです。
新型コロナウィルス感染症の影響を乗り越え、経済活動も活性化しています。

ファンドについても、株式や不動産の他、事業ファンドの組成に関するご相談もありました。
新しい取組みや他社との協業を積極的に仕掛けていくご様子に刺激を受けました。

新NISAに個人投資家から大きな期待

2023年改正項目 影響 内容
新NISAの登場 株式 最大1,800万円まで恒久的に非課税
オープンイノベーション促進税制の拡充 株式 M&A型でも適用可
スタートアップへの再投資を非課税に 株式 株式譲渡益の再投資で20億円まで非課税に
不動産取得税、登録免許税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
自己発行の暗号資産は時価評価の対象外に 暗号資産 自己が発行した暗号資産は時価評価不要に
コインランドリーや暗号資産の償却規制 全般 コインランドリー投資は即時償却の対象外に

2023年の投資に関する世間の話題をさらったのは、何といっても新NISAでしょうか。
年間360万円(内、成長投資枠240万円)、最大1,800万円までの投資について、運用益や配当が非課税になります。
一般的な個人が将来の資産形成を考える上で、ゲームのルールが変わったと言えるかもしれません。

この他、オープンイノベーション促進税制の拡充や、不動産流通課税の軽減措置延長も嬉しい改正です。
一方、コインランドリーやマイニングマシンへの投資に関する償却規制が設けられました。
事業投資は優遇、富裕層の過度な節税は防止とメリハリが見られます。

2024年改正は投資への影響小さいか

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● 時価評価の対象外となる暗号資産の範囲拡大
● オープンイノベーション促進税制、事業再編投資損失準備金制度の延長・拡充
● 倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約後の損金算入制限

2023年と比較すれば大きな影響はないかもしれません。
しかし、倒産防止共済の損金算入制限など、見落とすと思わぬ落とし穴に嵌まる可能性もあります。
改正項目は、対象範囲や適用時期含め丁寧に確認することが重要と考えます。

2023年ファンド・投資税制④  ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2023年税制改正により延長されています。
一般の個人・法人からファンドまで広く恩恵を受けることができます。

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年ないし3年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2026年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2024年3月末まで)
0.15%
(2024年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2025年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2025年3月末まで)
0.3%
(2025年3月末まで)
経営力向上計画の認定を受けた
土地・建物の取得
事業譲受:1.6%
合  併:0.2%
会社分割:0.4%
(2024年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2024年3月末まで)
3.0%
(2024年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2024年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2025年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2025年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2024年3月末まで)

登録免許税については、今回の税制改正により以下の軽減措置が延長されました。
● 土地売買の所有権移転登記: 2.0% →1.5%
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等が取得する一定の不動産に係る所有権移転登記: 2.0% →1.3%
● 不動産特定共同事業事業法に基づき取得する一定の不動産に係る登記
 所有権移転登記: 2.0%→1.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.3%

また、不動産取得税に係る軽減措置についても、以下の延長が行われました。
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等: 5分の2に軽減(5分の3を控除)
● 不動産特定共同事業者: 2分の1に軽減

適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。

コンマ数%の違いでも収支に大きな影響を及ぼす不動産流通課税。 軽減措置の延長は一般国民や事業者にとってありがたい支援となります。

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