2020年下半期ファンド問合せ状況

ファンド設立に関し、2020年下半期も引続き数多くのお問合せを受けました。
世界的な金融緩和の影響を受け、不動産ファンドまたはベンチャー投資ファンドを組成したいというご要望が旺盛でした。

不動産またはベンチャー投資に関する問合せが多数

2020年下半期ファンド問合せ(投資対象別)

投資対象別では、不動産及びベンチャー投資の上位2種が全体の半数を占めました。
金融緩和による余剰資金は伝統的な上場株式・REITだけではなく、私募ファンドに対しても流れ込もうとしています。
運用規模も100億円超を目指す大型ファンドがいくつも見られました。

2020年下半期ファンド問合せ(スキーム別)

スキーム別としては匿名組合(TK-GK)スキーム投資事業有限責任組合(LPS)で3分の2以上に達しています。
適格機関投資家等特例業務が目立ちましたが、ファンド運用者自身が投資運用業や第二種金融商品取引業を取得したいというご相談もありました。
この他、不動産特定共同事業法任意組合による組成もあり、ストラクチャーの多様化も徐々に進んでいる様子です。

2021年は不動産、株式に加え、足元で高騰している暗号資産(仮想通貨)に関するお問合せが予想されます。
もっとも、暗号資産に関する法制度は不透明な面もあり、ファンドの設立が実現するかは法整備にもよると考えています。

2020年ファンド・投資環境の変化

2020年のファンド・投資環境は、新型コロナウィルス感染症により日常生活や健康、業績等への懸念が強まる一方、株価や市況は極めて好調という特殊な年となりました。
世界的な金融緩和は当面続く見通しで、ファンドを組成したいというご相談も多く受けました。
他方、過度な節税に対して「待った」をかける税制改正が行われました。

賃貸住宅や海外不動産の節税策に歯止め

2020年改正項目 影響 内容
オープンイノベーション促進税制の創設 株式 一定のベンチャー株式投資で25%所得控除
× 居住用不動産の仕入税額控除の見直し 不動産 賃貸住宅の消費税還付が原則不可に
× 海外不動産の減価償却 不動産 海外中古物件の減価償却による赤字は他の所得と相殺不可に
受取配当の益金不算入の改正 全般 出資比率1/3超~100%未満の配当は、最大で4%課税

賃貸住宅の消費税還付や、海外投資不動産の減価償却を利用した節税に一定の規制がかけられました。
特に個人富裕層の中には、今後の投資戦略に大きな影響を受けた方も多いと考えます。

また受取配当金の益金不算入に関する改正は、法人実務において見落とさないよう注意が必要です。
出資比率が3分の1超~100%未満の子会社から受ける配当は、当該配当金額の4%か支払利子の10%のいずれか少ない金額に課税されます。

 

2021年は中小企業によるM&Aが活発になるとの期待も

 

来年2021年は、中小企業のM&Aを後押しする税制の創設に期待が寄せられています。
中小企業が一定の要件を満たす株式取得M&Aを行う場合、投資時に70%の損金算入が可能になるという制度です。

詳細については改正税制の公表が待たれますが、新型コロナウィルス感染症により損害を受けた企業の廃業を抑止する税制となることを望みます。

2020年ファンド・投資税制④ ~海外不動産の節税防止~

ファンド・投資に影響を与える税制改正の4つめは、海外不動産投資に関連する内容です。
個人が国外中古物件に投資し、多額の減価償却費により赤字を出して他の所得と通算する節税方法が塞がれました。

海外不動産の減価償却による赤字は他の所得と通算不可に

アメリカやイギリスの中古物件の特徴として、築50年以上でも需要が高く、また建物の比率が日本より高い点が挙げられます。
例えば築22年以上の木造居住用物件は4年で償却できることから、投資後4年間は多額の減価償却費を計上可能です。

これを利用した不動産所得の赤字を、個人の富裕層が事業所得や給与所得と通算して節税する方法が流行していました。
物件を売却する際には減価償却が進んだ分だけ多額の譲渡所得が生じますが、5年後以降であれば約20%の分離課税で済みます。
よって、高所得者ほど税率差による節税効果が高いとして、海外不動産投資は人気でした。

税制改正後は、国外中古物件に係る不動産所得の赤字のうち、建物の減価償却費相当額の損失は生じなかったものとみなされます。

海外不動産の税制改正

ただし物件売却時には、その生じなかったものとされた償却費相当額(上図では6,000万円)を取得価額に含めることができます。

既に保有している海外不動産にも適用

上記の改正は2021年分の所得税から適用されます。
そして、2020年以前に購入した物件であっても、不動産所得や譲渡所得の計算に影響が及びます。

その他にも、以下の留意点があります。
● 海外不動産を複数所有している場合、それぞれの建物ごとに計算する
● 黒字の海外不動産と赤字の海外不動産の所得通算は、これまで通り可能
● 耐用年数を簡便法等により計算した場合に適用(法定耐用年数で計算した場合は適用対象外)
● 個人の所得税に適用(法人は適用対象外)

今回の改正により、個人富裕層の海外不動産投資は下火になるでしょうか。
節税商品としてではなく純粋な不動産投資としてブームは続くのか、注目があつまります。

投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2018年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2018年度の状況を公表しました。
件数別では、投資事業有限責任組合は昨年に引き続き大きく増加しており、特定目的会社は横ばいとなっています。

投資事業有限責任組合、小型・大型案件が共に増加

2018年度(2018年4月期~2019年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬(2018年度)

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約110万円、特定目的会社で約140万円と、いずれも前年比で増加しています。
また、ファンド監査の件数については、投資事業有限責任組合が845件(前年比+51件)となりました。
ベンチャーファンドを設立する場合の選択肢として、投資事業責任組合の人気は根強いことが窺えます。他方、特定目的会社も425件(前年比+7件)と安定感が見られます。

足元でも、世界的な金融緩和を追い風にベンチャーファンドや不動産ファンドの設立に関するニーズは堅調といえそうです。
新型コロナによる影響が懸念される中、ファンドがこれからも資金調達の一手段として、事業や経済を回す役割を担っていくことを希望します。

2020年ファンド・投資税制③ ~賃貸住宅の消費税還付が不可に~

ファンド・投資に大きな影響を与える税制改正の3つめは消費税の還付に関する取扱いです。
賃貸住宅の建物部分に係る消費税の還付が認められなくなりました。

賃貸住宅の建物消費税に係る消費税還付は原則不可に

  従前 改正後
①居住用建物の消費税還付 課税売上割合のかさ上げにより還付可 課税売上割合にかかわらず原則不可
②居住用建物の範囲 賃貸契約で居住用であることが明らかな物件 構造や設備等も踏まえ、グレーなものも幅広く含む
③免税時に物件取得した後に課税事業者になった場合 免税・簡易課税の3年縛りなし 免税・簡易課税の3年縛りあり

上表①の通り、賃貸住宅(居住用賃貸建物)の消費税還付は原則不可となりました。

従前は、金の売買等により意図的に課税売上割合を上げることで還付が可能でしたが、これを防止するための改正です。

但し、物件を取得した年度の初日から3年以内に、事業用賃貸へ転用した場合や譲渡した場合、税額控除調整という救済措置があります。

関連コラム:
(2016/7/19) 消費税還付スキームは今後困難に、不動産ファンド組成に影響も

「居住用賃貸建物(賃貸住宅)」の範囲が拡大

また上表②の通り、消費税還付規制の対象となる住宅用賃貸建物の範囲が拡大されます。

従前は、賃貸契約において居住用であることが明らかにされているものが該当しました。

今後は、契約内容だけではなく、建物の構造や設備の状況等も踏まえた実態で判断します。
そして、住宅用でないことが明らかな建物(=事務所、店舗、ホテル等)以外は、原則すべて住宅用とされます。
(1,000万円未満の棚卸資産、100万円未満の固定資産等は除きます)

用途が未定であったり、現在居住用として賃貸していなくても今後貸付ける可能性があれば、基本的に居住用建物に含まれる模様です。
なお、居住用と事業用の併用物件の場合、面積や賃料等で合理的に按分することになります。

①は2020年10月1日以後、②及び③は2020年4月1日以後から適用されます。

今回の改正は、不動産ファンドを設立する方だけでなく、アパートやマンション投資をする個人投資家にも大きく影響します。
賃貸住宅の消費税還付に関するいたちごっこも、ほぼ終止符が打たれることになりそうです。

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