投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2013年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2013年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合と特定目的会社はファンド監査が義務づけられており、監査報酬や時間数等の監査実施状況調査の結果がまとめられています。

ファンド監査報酬の平均はほぼ変わらず、大型案件は増加か

2013年度(2013年4月期~2014年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。
ファンド監査報酬(2013年度)
ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約100万円、特定目的会社で約150万円となり、前年よりやや減少しているものの大きくは変わらない結果となりました。
最低値と最高値に大きな乖離がある点も同じで、投資事業有限責任組合の最高額は2,380万円と多額です。

一方、ファンド監査の数は減少が見られます。
あくまで公認会計士協会に報告されている数になりますが、投資事業有限責任組合は598(前年比▲36)、特定目的会社は418(前年比▲49)という状況です。
但し、投資収益(売上高)10億円以上の大型案件については、いずれも増加しています。

直近では弊事務所へのファンド設立に関するご相談は増えており、来年2014年度の調査結果ではファンド監査の全体数も伸びるかもしれないと考えています。

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(2014/7/27)  監査提言集、ファンド監査の事例も
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(2014/4/6) 投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2012年度)

投資事業有限責任組合の基準が今年も改正、ファンド監査報告書や注記に影響

「投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い」の改正案が公表されました。
昨年公表された「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」 を受けて見直しが行われています。

ファンド監査は「特別目的の財務報告」、「準拠性」の枠組み

投資事業有限責任組合や任意組合に関するファンド監査の多くは、特別目的の決算書を対象とし、準拠性の枠組みであることが整理されました(下表の右下)。
ファンド監査は「特別目的の財務報告」、「準拠性」に該当
ファンド監査報告書においても、従来は決算書が「適正に作成しているか」意見を表明していましたが、新基準によれば会計基準や組合契約に「準拠して作成しているか」について表明することになります。

また、ファンド監査報告書が特定の利用者のみを想定している場合、配布及び利用が制限されている旨を記載します。
例えば無限責任組合員が有限責任組合員のみに提出する場合が挙げられます。

ファンド決算書の注記や業務報告書も改正

ファンドの決算書に注記される情報にも改正があります。
● 財務諸表等作成の基礎:投資事業有限責任組合法や会計規則、組合契約に準拠している旨
● ファンドの存続期限が1年未満になった場合:早期換金化による流動性リスクに言及
● 最終年度に資産の回収及び負債の返済ができなかった場合:早期処分価額での評価に言及

この他、業務報告書にも、過年度に減損した銘柄について投資償却損累計額を記載する等の変更があります。

今回の改正は2015年4月1日以後開始する事業年度からの適用となる見込です。

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監査提言集、ファンド監査の事例も②

ファンド監査における循環取引が2014年の監査提言集で取上げられたというコラムを以前記載しました。
2011年の監査提言集では、投資事業組合に対する出資の評価について言及されていたのでご紹介します。

ファンドに対する出資・貸付の評価が不十分と判断

本件は、ある会社が投資事業組合等のファンドに対して出資・貸付を行っており、当該会社の監査人はその回収可能性について十分な検討を行っていなかったという事例です。
ファンドへの出資・貸付に係る監査
【監査手続】
● ファンドの決算書や事業計画等のレビュー →実施せず
● ファンド監査人が行った監査手続のレビュー →実施せず
● 経営者とのディスカッション及び経営者確認書の入手 →実施

恐らく、投資会社やファンドに対しヒアリングだけを実施し、「十分な確証を得てはいないけれど、会社の言っていることは本当だろうから多分大丈夫」と判断したのではないかと推測します。
ファンドはそのスキームや投資内容によってはわかりづらいものもあり、監査上アプローチが困難なケースもあります。
しかし、実態がつかみづらいからといって敬遠せず、違和感を感じたらファンド監査人としての確証を得られるまで手続を遂行したいと考えます。

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(2014/2/16) ファンド監査の意見表明に変更?

適格機関投資家等特例業務、規制強化は一時中止に

今月8月1日から施行予定とされていた適格機関投資家等特例業務の見直し案ですが、一旦中止となったようです。
ただし、廃案ではなく引続き閣議決定にかけようとする動きはあると聞こえており、何らかのファンド規制が行われる可能性は依然残されていると思われます。

ファンド監査への影響は?

ここで仮に、あるファンドが法令や規制に反して設立されたり、募集・運用を行っていたとします。
この場合ファンド監査において、決算書類が適正であれば法規に反していても問題なしといえるでしょうか?
法規違反はファンド監査では・・・?
たしかに監査報告書では、監査対象は「財務諸表等、・・・(会計に関する部分に限る)」と記載され、実際ファンド監査も法律よりは会計を中心に行います。
しかし、例えば投資事業有限責任組合の監査報告書であれば「投資事業有限責任組合契約に関する法律第8条第2項の規定に基づき・・・」と記載されるように、ファンド監査の根拠が法令等である以上、法規を無視して会計だけをチェックしていればいいとはいえないものと考えられます。

また、ファンド設立や運用に関する規制に違反した場合、金融庁から認可取消しといった処分もあり得ます。
よって、ファンドの将来継続性に影響を及ぼす法規違反を検出したのであれば、投資家に注意を喚起する必要があるでしょう。

今回のファンド規制の行く末は私たちにとっても非常に関心が大きく、引続き注視したいと思います。

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監査提言集、ファンド監査の事例も

2014年監査提言集が先日公認会計士協会より公表されました。
業種ごとのリスクや不適切な取引に対しどのように監査手続を実施すべきか、実際の事案に基づき整理されています。
この監査提言集は毎年7月頃公表されており、2013年や2012年にはファンド監査についても言及しています。

ファンドの預金の実在性が問題に

監査提言集で取上げられていたのは、ファンドを利用して循環取引を行っていた事例です。
ファンドにいったん資金を流してすぐ回収、と経済的には何の効果もない取引を行い、決算書に実態のない投資(資産)と売上を計上するというものでした。
ファンド監査で資産の実在性を

ファンドにおいては、出資金が貸借対照表に預金として計上されたままであり、預金は実際には会社に返還されファンドからなくなっていたことに気づけば架空取引は検出できたと考えられます。
以上から提言集でも、ファンド監査において預金通帳のレビューや銀行への残高確認により預金の実在性を確かめるべきだったとしています。

預金通帳のレビューや残高確認は監査の基礎であり、だからこそ手を抜いてはいけない必須手続であると再認識しました。

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