ベンチャー投資促進税制、期限延長でファンドに追い風

ベンチャーファンドの設立を税務面から支援するベンチャー投資促進税制、2018年3月末まで延長され、内容の拡充もありました。
損金算入限度やファンド規模要件が変更されています。

ファンドがベンチャー株式へ投資した額の50%を損金に

改正前 改正後
損金算入限度 ベンチャー投資額の80% ベンチャー投資額の50%
ファンド規模
(出資約束金額)
20億円以上 10億円以上
投資対象 国内のベンチャー企業 地方投資要件を追加
(投資額の5割以上を地方企業、
地方担当者の設置など)

投資家が認定ファンド(※)を通じてベンチャー企業へ投資した場合、その投資実行額の50%を投資時の損金とすることができます。
従来は80%まで損金算入が可能であったため、税務メリットは縮小されています。
※ 経産省に投資計画の認定を受けた投資事業有限責任組合

但し、ファンドが集めなければならない最低金額が10億円以上とされ、ファンド組成のハードルは下げられました。
一方、投資額の5割以上を地方のベンチャー企業への投資であることなど、地方投資要件が追加されています。

ファンド設立にあたっては目標IRR15%以上、無限責任組合員の出資割合1%以上などクリアしなければならない要件が他にもいろいろあります。
しかし投資実行時に50%の損金というメリットは大きく、2018年3月までに認定ファンドはまだ増加するものと考えます。

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2017年ファンド税制 ~不動産取得税、登録免許税の軽減延長~

ファンドが不動産を取得する際に負担する税金として不動産取得税、登録免許税があります。
2017年税制改正により、これらの税金に関する軽減措置が延長されました。

ファンドの不動産取得税、登録免許税に係る軽減措置が2年延長

特定目的会社、投資信託、投資法人(REIT)等に課せられる不動産取得税について、課税標準の5分の3軽減特例がさらに2年延長され、2019年3月末までとなりました。
不動産特定共同事業法に基づき取得した新築家屋等に係る不動産取得税についても、課税標準の2分の1軽減措置が2019年3月末まで延長されました。

また、登録免許税の軽減措置も同様に、2019年3月末まで延長されています。

  • 所有権移転登記:通常1000分の20 →1000分の13
  • 保存登記(不動産特定共同事業法のみ):通常1000分の4 → 1000分の3
不動産取得税
(地法附則11③~⑤,⑭)
登録免許税
(租税特別措置法83の2,3)
特定目的会社
投資信託、投資法人
5分の3を控除
(5分の2に軽減)
所有権移転:1000分の20 → 1000分の13
不動産特定共同事業法
(一定の新築家屋等が対象)
2分の1を控除 所有権移転:1000分の20 → 1000分の13
保存:1000分の4 → 1000分の3

土地売買、住宅用建物の登録免許税も軽減特例延長に

なお、ファンドに限定された措置ではありませんが、土地売買や、個人の住宅用建物に係る登録免許税についても、引続き軽減措置が適用されます。

登録免許税
所有権移転 所有権保存
土地の売買 1000分の20 → 1000分の15
(2019年3月末まで)
 1000分の4
個人の住宅用建物
(新築及び一定の中古)
1000分の20 → 1000分の3
(2020年3月末まで)
1000分の4 → 1000分の1.5
(2020年3月末まで)

ファンド組成の際、税金コストは無視できません。
軽減措置については適用期限と併せて把握しておくことが重要です。

2016年ファンド税制 ~株式・社債の損益通算や消費税還付スキーム~

ファンド・投資環境は2016年早々、中国経済懸念や原油安といったトピックを受けて大きな変動に見舞われています。
一方、税制改正によって2016年以降ファンドや投資にどのような影響が発生するのか、整理しました。

上場株・公社債の損益通算は可能、非上場株との損益通算は不可能に

主な内容
株式、社債 上場株式等と特定公社債(国債、上場公社債等)の損益通算が可能に
× 上場株式等と非上場株式等の損益通算が不可能に
NISA ジュニアNISA(未成年者口座で年間80万円まで非課税)の運用開始
不動産ファンド × 免税・簡易課税の要件が厳しくなり、消費税の還付が一層困難に
太陽光ファンド × 生産性向上設備投資促進税制は50%償却or4%税額控除(2016/4~2017/3月)

従来は株式、社債等の投資商品ごとに損益通算の取扱いが大きく異なっていました。
2016年以降は金融所得課税の一体化により、上場資産と非上場の資産に区分されます。
よって、例えば上場株式に係る譲渡損益や配当と、上場公社債に係る譲渡損益や利子との損益通算が可能になります。
一方、これまで可能であった上場株式と非上場株式との損益通算が不可能になります。

この他、1,000万円以上の高額資産を購入した場合、簡易課税や免税制度の適用が大きく制限されることになりました。
これにより、不動産ファンド等でマンションを購入して消費税の還付を受けるスキームは、ほとんどのケースでメリットがなくなります。

これらの改正点を全体的な視点で見ると、上場あるいは広く流通している投資商品を推奨し、プライベートや少人数で運用している資産を厳しく制限する意向を感じます。
投資の多様性より安全性を優先したいようではありますが、最終的には投資家自身がそれぞれリスクとリターンを判断することが何より重要と考えます。

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上場株式等、年末ポジション整理や含み損益銘柄の決済は早めに

まもなく年末を迎え、今年度の投資を清算する方も多いかと思います。
今回は代表的な投資である上場株式等について、税務上の注意点を取上げます。

特定口座の場合、ポジション整理は余裕をもって数日前に

個人投資家が今年の運用成績を見ながらポジションを整理して含み損 / 益銘柄を決済したい場合、年末ギリギリではなく早めの実行が大切です。
約定日から実際の決済日(受渡日)までには3営業日程度のタイムラグがあります。

ここで所得税法では、上場株式等の売買損益を計上するのは原則約定日ではなく「株式等の引渡しがあった日」とされます(所措法37の10-1)。
従って約定日が12月末、決済日(受渡日)が翌年1月となった場合、12月中にポジションを整理して損益を調整したつもりでも翌年に取引したことになるため、ポジション整理は余裕をもって行うのがよいでしょう。

但し、特定口座ではなく一般口座であれば、確定申告において約定日ベースで売買損益を計算することも可能です。
なお、法人の場合は約定日により計上します(法基通2-1-22,23)。

個人 特定口座 決済日(受渡日) →余裕をもって3日前には取引実行
一般口座 決済日(受渡日) / 約定日
法人 約定日

 

クロス取引は個人投資家には有効、法人は売買目的有価証券のみ可

ポジション整理に関連して、所有している株式等を一度売却し、直ちに同一銘柄の株式等を購入することをクロス取引といいます。
例えば現時点で多額の利益(実現利益)を上げている投資家が含み損銘柄を持っている場合、当該銘柄を売却してすぐ買戻すことが考えられます。
これによりポジションは変わらず、含み損の実現によって利益を圧縮して税金を減らすことができます。
反対に、実現(決済)損益がマイナスの投資家が含み益銘柄を一旦売却し、買戻すことで損失を減らす場合もあります。
クロス取引のイメージ

このクロス取引の注意点として、個人投資家には有効ですが、法人の場合は売買目的有価証券を除いて認められません。
すなわち、法人が売買目的以外の有価証券についてクロス取引を行った場合、その売却は「なかったもの」とされます(法基通2-1-23の4)。
よって、ここで実現させた含み損益は法人税法上は認識することができないため注意が必要です。

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オフショアファンドの配当、現地で損金算入なら課税対象に

オフショアファンド(海外に設立したファンド)から会社が配当を受けた場合、通常は日本側では課税されません。
この外国子会社配当の益金不算入という制度について、一部見直されました。

オフショアファンドの損金算入配当は日本側で課税対象に

オフショアファンドを含む外国子会社(6ヶ月以上にわたり25%以上出資している外国会社)からの日本の法人に対する配当について、原則として日本では95%が非課税とされます。
この益金不算入となる配当には優先株式に対する優先配当、そして従来は現地で損金算入された配当も対象とされていました。
LLCなどからのパススルー課税となる収益分配も該当していました。
オフショアファンドの配当
しかし平成27年度税制改正により、現地国で損金に算入された配当は、日本側で益金不算入の対象外となったため、今後は課税される見通しです。
オフショアファンド等の獲得した利益が現地国でも日本でも課税されない、という不均衡を解消することがその趣旨です。
なお、益金不算入の対象外とされた配当に係る外国源泉税等については、外国税額控除または損金算入が可能となります。

上記改正は2016年4月1日以後に開始する事業年度に受ける配当に適用されます。
但し、経過措置が設けられており、2016年4月1日時点で25%以上出資しているオフショアファンド等からの配当は、2年間は従前の通り課税されません。

LLCを始めとするオフショアファンドの設立に関するご相談はよくありますが、このような税制の見直しには注意が必要と考えます。

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