匿名組合の支払調書、マイナンバーは2016年分から記載

匿名組合において利益分配を行った場合、営業者は翌年1月末までに支払調書を税務署に提出します。
この支払調書に配当を受けた出資者のマイナンバーを記載する開始時期は、原則通り2016年分(2017年1月末提出分)からとなる見込です。

匿名組合分配は原則通り、株式配当には3年間の猶予

マイナンバーを法定調書や源泉徴収票に記載するのは、原則2016年分(2017年提出分)以降となります。
匿名組合に係る支払調書も例外ではなく、営業者は2016年以降に分配金を支払った投資家からマイナンバーを収集する必要があります。
翌年1月の提出期日間近になって収集するのは困難なケースも多く、分配の段階で把握するよう早めの対処が望ましいでしょう。

一方、下表の支払調書については3年間の猶予規定が設けられており、2019年分から記載すればよしとされています。

3年間の猶予規定が設けられている支払調書
利子等の支払調書
配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書
投資信託又は特定受益証券発行信託収益の分配の支払調書
先物取引に関する支払調書
特定口座年間取引報告書 など

株式や投資信託の配当、利子の支払などが挙げられています。
但し、猶予の対象は既存株主への支払調書等になります。
よって、2016年1月1日以後の新しい株主については猶予規定はなく,2016年分からマイナンバーを記載することに注意が必要です。

なお、個人が支払を受ける利子等・配当等で源泉分離課税の対象となるものは、支払調書の提出は不要です。

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匿名組合を利用した循環取引、監査で見過ごされたケースも

匿名組合などファンドを偽装して資金循環取引を行い、架空売上を計上した事例が相次いでいます。
2015年度の監査提言集でも同種のスキームについての指摘が数件ありました。

匿名組合の預金や運用資産は必ず確認

循環取引のスキームは下図の通りです。
匿名組合を利用した循環取引
この結果、匿名組合(ファンド)では出資を受けて預金が資産計上されますが、実際には会社に返金されているため実在しません。
また会社においては匿名組合出資金(資産)と売上が同額計上されますが、いずれも実態のない無価値の資産及び架空売上です。

これらは典型的な循環取引ですが、不正が見過ごされた要因として以下が挙げられます。
● 売上債権は見かけ上は入金されているため(④)、架空売上であると気づきにくい
● 匿名組合出資(②)について、法形式上は契約書や目論見書などの書類が整備されている
2点目については、特に匿名組合の場合、投資事業有限責任組合と異なりファンド監査が義務づけられていません。
よって、形式的な書類チェックやヒアリングでは虚偽を見抜くのは困難と考えられます。

以上から、匿名組合の口座についても銀行への残高確認や預金通帳の実査を実施する、匿名組合自体も監査の対象とするなどの提言がなされています。
現実的には会社の監査人が投資先のファンドの通帳まで要求しても、入手困難であったり関係者から難色を示されることが多いと思われます。

それでも匿名組合を設立した経緯や出資の合理性に疑義を感じた場合は、残高確認やファンド監査を検討し、資産の実在性や評価の妥当性を必ず確認すべきと考えます。

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(2014/4/20) ファンド監査の新しい監査報告書様式が公表

ファンド監査の新しい監査報告書様式が公表

ファンド監査や年金監査といった特別目的の決算書等に対する監査について、新しい監査報告書の様式が公表されました。
公認会計士協会のHPで新様式を見ることができます。

匿名組合の監査報告書が例示

以前コラムで、目的や利用者が限定された決算書等について、特別目的の財務報告として監査のアプローチを区分する方針を取上げました。
ファンド監査はこれに該当することが多いと考えられ、今回公表された監査基準では匿名組合の監査報告書が例示として記載されています。
従来の監査報告書と比較すると、いくつかの点で違いが見られます。

ポイント①特別目的か一般目的か
決算書等が特別目的の場合、監査意見の下に以下のような記載がなされます。
「匿名組合出資者に提出するために営業者により作成されており、それ以外の目的には適合しないことがある。」

ポイント②準拠性監査か適正性監査か
特別目的の監査においては、特定の規則や契約に準拠しているか検討する「準拠性監査」となることが多いと思われます。
この場合、監査意見は「匿名組合契約~条の取決めに準拠して作成されているものと認める。」と表明するに留まります。
一方、従来の適正性監査であれば、この先に「すべての重要な点において適正に作成されている」といった意見が続きます。

ポイント③監査報告書の配布や利用が制限されているか
配布や利用に制限がある場合、監査意見の下に以下のような記載がなされます。
「営業者と匿名組合出資者のみを利用者として想定しており、営業者及び匿名組合出資者以外に配布及び利用されるべきものではない。」

匿名組合や投資事業有限責任組合といったファンド監査について、この新しい様式の監査報告書を今月から早期適用することが可能です。

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匿名組合の源泉徴収

ファンドの中でも匿名組合の場合、源泉徴収に関して投資事業有限責任組合のケースとは異なる点があります。
源泉徴収はファンドの資金繰り等に大きな影響を及ぼすため、取上げたいと思います。

匿名組合の利益配当には20%の源泉徴収

匿名組合で生じた利益を投資家に分配する場合、営業者は20.42%を源泉徴収します(所法161条⑫,210条)。
これは組合員が日本人・国内企業でも、非居住者等(非居住者または外国法人)の場合でも同様です。
この点、組合員が一定の非居住者等の場合を除き源泉徴収が不要であった投資事業有限責任組合とは大きく異なります。

匿名組合の源泉徴収の注意点
● 翌月10日までに税務署に納付(半年毎に納付できる特例(所法216条)の適用はなし)
● 営業者は税務署及び投資家に対し、支払調書を提出(所法225条③)
● 非居住者等の源泉免除規定(所法180条,214条)は、匿名組合の利益分配には適用されない

匿名組合に対する賃料等については源泉不要

前回のコラムで、投資事業有限責任組合において、組合員に非居住者等がいる場合は、事業会社が組合に賃料を支払うといった際に源泉徴収が必要になることを記載しました。
匿名組合においては、同様のケースで組合員に非居住者等がいても、賃料等はあくまで営業者に対する支払と位置付けられます。
従って、匿名組合に不動産の賃料や購入代金を支払う場合には、源泉徴収は不要となります。

「源泉徴収」に関連するコラム:

(2014/3/16) 投資事業有限責任組合の源泉徴収②
(2014/3/9) 投資事業有限責任組合の源泉徴収①

「匿名組合」に関連するコラム:

(2014/3/2) 匿名組合の利益計算が否認された事例

匿名組合の利益計算が否認された事例

ファンドの中でも匿名組合は、組合員への配当によりパススルー課税と同等の効果を得られるとしてよく活用されるスキームです。
今日は、その計算を一部認めないとされた裁決事例(国税不服審判所・13年3月)をご紹介します。

本件匿名組合の概要

この事例では、07年1月に契約締結したP匿名組合と、その前年の06年12月に終了したK匿名組合が登場します。
本件を単純化すれば、営業者は、K匿名組合において生じた事業損失及び管理費用を、P匿名組合の利益から控除しました。
一方、裁決ではこれら2つの組合は別個のものであるとされ、上記損失及び管理費用をP匿名組合の利益から控除することは認められませんでした。

匿名組合の事例

匿名組合の契約内容もポイントに

営業者は、P匿名組合はK匿名組合の自動更新条項に従って更新されたものであり、2つの組合は実質的に同一と主張しました。
しかし、P匿名組合とK匿名組合とは契約内容(事業内容や解約条項)が同一とはいえず、またK匿名組合の運用報告書には出資金の返還額に関する記載等もあり、これら2つの組合は形式的にも実質的にも別個のものと判断されました。
更に、P匿名組合の管理費用についても、P匿名組合の利益から控除することはできないとされており、契約書における利益計算上、当該管理費用を控除する旨の規定がないことが指摘されています。

匿名組合における利益計算の適正性は、このように契約内容や運用報告等も材料としながら形式・実態の両面から判断されています。
ファンド設立や清算の際には、こういった点も慎重に検討する必要があると考えます。

「ファンド設立」に関連するコラム:

(2014/2/2) ファンド設立における不動産取得税(5分の3控除)