投資事業有限責任組合のLLPによるGP登記が可能に

投資事業有限責任組合(LPS)は、無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)から構成されます。
無限責任組合員はファンドの運営を行い、有限責任組合員は投資家として資金を拠出します。
この無限責任組合員になれるのは個人や法人だけではなく、有限責任事業組合(LLP)も可能です。
2023年6月に登記規則が改正され、投資事業有限責任組合の無限責任組合員として、有限責任事業組合を登記することができるようになりました。

LPSのGPとしてLLPを登記することが可能に

投資事業有限責任組合の設立にあたって、有限責任事業組合を組成して無限責任組合員とするケースがあります。
例えば、ファンドを運営する個人や法人が無限責任を負うのを回避するといった理由があります。

この場合であっても、従前は無限責任組合員として登記できるのは個人または法人のみでした。
よって、有限責任事業組合の組合員全員、またはその代表者を無限責任組合員として登記することが行われてました。

今回の登記規則の改正により、有限責任事業組合自身が無限責任組合員として登記できるようになります。
また、既に設立されている投資事業有限責任組合についても、更正の申請により上記扱いが認められるとされています。

投資事業有限責任組合のLLPによるGP登記が可能に

投資事業有限責任組合の柔軟な設計に、登記実務も対応されるようになったのは望ましいことと考えます。

投資事業有限責任組合の海外投資制限が緩和

2024年は投資事業有限責任組合(LPS)に関する法律や会計規則の改正が相次ぎました。
会計面では、公正価値評価が原則とされた他、監査意見の範囲に係る修正もありました。

更に運用面でも、海外投資規制が緩和されるなどの法改正が行われています。

実質支配する外国株式投資は制限対象外に

LPSには、外国法人の株式等への出資割合を50%未満としなければならいない制限があります。
日本の経済活力の向上が元々の制度趣旨として掲げられているためです。
この出資割合は、海外投資額が総組合員の出資履行金額総額に占める割合とされています。

2021年の法改正により、産業競争力強化法に基づく海外投資規制の特例が設けられました。
LPSが経済産業大臣の認定を受けて行う一定の海外投資は、50%比率規制の適用が除外されます。

更に2024年の改正により、国内事業者が経営を実質的に支配し、または経営に重要な影響を及ぼす外国法人も、50%比率規制の対象となる外国法人の範囲から除外されました。
LPSを活用した海外事業投資の促進を図ったものです。

関連コラム:
(2024/9/30) 投資事業有限責任組合は公正価値評価が原則に
(2024/10/31) 2024年投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱いの改正

暗号資産や合同会社の持分もLPSの投資対象に

その他の改正事項として、LPSの投資対象が拡大しました。
暗号資産及び合同会社の出資持分が対象に追加され、スタートアップへの投資環境が改善されました

なお、LPSは法人格を有しないため、合同会社の社員にはなれません。
よって、代わりに無限責任組合員が合同会社の定款や登記簿謄本に記載されることになります。

今回の法改正により、LPSによる事業展開の幅が広がることが期待されます。

2024年投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱いの改正

「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」が今年に入って2回改正されています。
LPS会計規則やLPS法の改正があったため、これらに対応しました。

LPS会計規則の改正により公正価値評価が原則に

2023年12月にLPSの会計規則が改正され、非上場株式を原則として公正価値評価することが定められました。

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(2024/9/30) 投資事業有限責任組合は公正価値評価が原則に

これと整合させるべく、公認会計士協会は2024年6月21日、「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正を公表しました。

主な変更点は以下の通りです。
● 時価の定義を公正価値と明確化
● IPEVガイドライン採用時の公正価値の見積りに係る監査上の留意事項を新設
(改正前は付録8に記載)
● 附属明細書「1.投資の明細」、「3.組合員の持分に関する明細」における期末時価を削除

2024年10月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

LPS法の改正により監査意見の範囲等が修正

LPS法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)も2024年6月に改正がありました。
これに伴い2024年9月17日、今年2回目となる「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正が公表されました。

今回の変更点は主に以下の通りです。
● 監査意見及びその他の記載内容の範囲に関する修正
● 業務報告書に記載された重要な後発事象を財務諸表においても注記
(業務報告書が監査意見の対象外になったため)
● 中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の廃止に伴う修正

1点目について、業務報告書が監査意見の対象外とされ、その他の記載内容に含まれることとされました。
会社法において事業報告書が監査意見の対象外である点と整合的になりました。

  改正前 改正後
B/S及びP/L 監査対象 同左
重要な会計方針
及びその他の注記
監査対象 同左
業務報告書 監査対象 その他の記載内容
(意見範囲の対象外)
附属明細書 会計に関する部分:監査対象
会計に関する部分以外:その他の記載内容
B/S及びP/Lに係るもの:監査対象
B/S及びP/Lに係るもの以外:その他の記載内容

こちらに関しては、2024年9月2日以後開始する事業年度から適用されます。

投資事業有限責任組合は公正価値評価が原則に

投資事業有限責任組合(LPS)の会計規則が改正されました。
改正後は、非上場株式を原則として公正価値により評価すると定められています。

LPSの投資は公正価値評価が原則に

1998年に施行された中小企業等投資事業有限責任組合会計規則が廃止され、2023年12月5日より投資事業有限責任組合会計規則が新設されました。
この間、経済や金融の国際化、IFRSの導入等が進み、海外投資家を一層呼び込むべくファンドの会計基準も変わろうとしています。

会計規則の大きな変更点として、時価とは公正価値であることが明確化されました。
また、改正前の「時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない」という記載が削除されました。

  改正前 改正後
投資の評価 時価、但し時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない 原則として時価
時価の定義 組合契約に定めるところによる 公正価値評価
評価方法 組合契約に定めるところによる

主な評価方法をまとめると、下表のように整理されます。

  評価方法 主な対象者
公正価値評価
(IPEVガイドライン等)
マーケットアプローチ
DCF
コストアプローチ
● IFRS適用会社
● 投資事業有限責任組合
(本改正後は原則的な位置付けに)
旧投資価値評価準則
(経産省モデル等)
直近ファイナンス価格または回収可能価額(※)のいずれか低い方 ● 投資事業有限責任組合
(本改正後は例外的な位置付けに)
金融商品会計基準 取得原価
(時価が著しく下落すれば減損)
● 上場会社(IFRS適用会社を除く)
● 会社法上の大会社
税務基準 取得原価 ● 一般の非上場会社

※ 回収可能価額は簡便的に投資先の状況に応じて取得価額の75%、50%、25%、備忘価額のいずれかとすることができる

これまで多くの投資事業有限責任組合で見られた取得原価+評価減(直近ファイナンス価格または回収可能価額)方式による評価は、例外的な位置付けとなります。

LPSのモデル契約も公正価値評価のみ例示

投資事業有限責任組合の組合契約書には、経産省が2018年に公表したモデル契約があります。
この別紙3「投資資産時価評価準則」において、元々は2つの評価方法が並列的に例示されていました。
取得価額+評価減方式と、IPEVガイドラインです。

今回の会計規則改正を受けて、別紙3に記載される時価評価準則はIPEVガイドラインに準拠した公正価値のみとされました。

公正価値評価を採用しない場合はLP全員に説明及び同意を

公正価値評価は原則とされたものの、強制適用とまではされていません。
経産省のパブコメによれば、例外として従前の直近ファイナンス価格モデル等の採用も認められています。

新規に設立する投資事業有限責任組合において公正価値評価以外の評価方法を採用する場合、無限責任組合員(GP)がその必要性について合理的な説明ができるかどうか整理した上で、全ての有限責任組合員(LP)の同意を得て組合契約に定めることが想定されています。
また、既存の投資事業有限責任組合についても、途中で評価方法を変更することの要否等を検討することが考えられます。
いずれの場合でも、会計監査を行う公認会計士または監査法人に事前に相談することが望ましいでしょう。

改正後の会計規則は、2024年10月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

適格機関投資家等特例業務の改正、投資家の範囲は法施行まで注視

適格機関投資家等特例業務の改正に関する法律案が成立して以降、問合せが増えています。
適格機関投資家やそれ以外の一般投資家の範囲、また施行時期などが注目されています。

一般投資家の範囲等は、今後内閣府令や政令により発表

最終的な一般投資家や適格機関投資家の範囲については、改正法律案の施行が遅くとも2016年5月であることから、今後それまでに内閣府令や政令により発表されると見込まれます。

金融審議会のワーキンググループにより2015年1月にまとめられた報告書がベースになると考えられ、これによれば一般投資家の範囲として以下の者が挙げられています。

主な一般投資家の範囲(案)
● 資本金または純資産が5千万円を超える法人
● 上場会社
● 投資資産を1億円以上保有、かつ証券口座開設後1年経過した個人
● 投資資産を3億円以上保有している法人
● ファンド運用業者、その親会社等、子会社等及びその役員・使用人・親族等
● 外国法人
● ベンチャーファンドで相応の体制が整備されている場合、上場会社の役員や上場株主 等

 

また、特例業務に出資する適格機関投資家の範囲についても、以下の提言がなされています。
投資事業有限責任組合が適格機関投資家となる場合、資産要件を設ける
例:運用資産(借入除く)5億円以上
● 適格機関投資家がファンド運用者に支配されている場合、特例業務は認めない

オフショアファンドの場合、投資家層や販売方針を個々に検討する必要

国外でファンドを設立し、投資対象も海外株式といったオフショアファンドについても最近ご相談が急増しています。
日本で国内投資家に対し勧誘や販売行為を行うのであれば、原則として金融商品取引法の規制対象となります。
よって、適格機関投資家等特例業務の届出や第二種金融商品取引業の登録が必要となるケースが多いと考えられます。

但し、実務的には具体的な投資家層や勧誘方針、販売方法に照らして検討した上で判断する必要があります。
実態のないファンドによる被害を防止すべく、規制が厳格化、複雑化する流れは今後も続くと思われます。
ファンド設立の前の段階で、法令の趣旨や省庁の意向を踏まえた適切な検討及び対応をしたいと考えます。

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