2023年ファンド・投資税制① ~新NISAの登場~

2023年税制改正の中で、多くの国民に歓迎されたのはNISAの改正でしょう。
投資枠の大幅拡大、そして非課税期間の無期限化は、株式に投資する個人だけではなくファンド運用者の間でも話題になりました。

年間最大360万円、生涯投資枠は1,800万円に拡大

NISA(少額投資非課税制度)の口座で株式や投資信託に投資した場合、運用益や配当が非課税となります。
通常は20.315%かかる税金がゼロとなるこの制度はしかし、年間投資枠が小さいことや非課税保有期間が5年(一般NISA)ないし20年(つみたてNISA)に限定されていることがネックでした。
今回の改正で、下表の通り大幅に改善されました。

新NISAの概要

年間投資枠はつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円に拡大されました。
これらは併用可能なため、最大で360万円まで投資することができます。

また生涯投資枠はトータル1,800万円で、この内、成長投資枠は1,200万円までとなります。
つみたて投資枠だけで1,800万円投資することも、つみたて投資枠600万円+成長投資枠1,200万円と併用することも可能です。
そして、売却益や配当が非課税となる期間は無期限です。

投資枠は翌年復活

投資した株式等を売却した場合、投資枠は簿価残高(投資元本)ベースで翌年復活します。
例えば、既に1,600万円分の投資を行っている場合、追加で投資できるのは最大で200万円です。
ここで、簿価ベースで300万円分を売却すれば、翌年にはその分の投資枠が再利用できます。
よって、今年他に売買しなければ簿価残高は1,300万円(=1,600万円 - 300万円)となり、翌年以降に追加投資できるのは計500万円となります。

新NISAが開始するのは2024年1月からとなります。
なお、現行のNISA制度は2023年12月末で買付終了となり、新NISAの外枠で非課税措置が適用され続けます。

関連コラム:
(2014/7/13)  NISAの注意点
(2019/11/11)  NISAの年齢要件が20歳から18歳へ引下げへ

2022年ファンド・投資税制③  ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2022年税制改正により延長されました。
一般の個人・法人からファンドまで広く恩恵を受けることができます。

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2023年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2024年3月末まで)
0.15%
(2024年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2023年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2023年3月末まで)
0.3%
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の認定を受けた土地・建物の取得 事業譲受:1.6%
合  併:0.2%
会社分割:0.4%
(2024年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2024年3月末まで)
3.0%
(2024年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2024年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2023年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2024年3月末まで)

※ 50㎡(新築賃貸マンションは40㎡)以上240㎡以下の新築または居住用中古家屋については、最大1,200万円の控除あり

登録免許税については、今回の税制改正により以下の軽減措置が2年延長されました。
● 個人の住宅用家屋(50㎡以上の新築または一定の中古)
 所有権移転登記: 2.0%→0.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.15%
● 認定経営力向上計画に基づき行う所有権取得
 事業譲受:1.6%
 合併:0.2%
 会社分割:0.4%

また、不動産取得税に係る軽減措置についても、以下の延長が行われました。
● 認定経営力向上計画に基づき行われた事業譲受: 6分の5に軽減(6分の1を控除)

適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。

特定目的会社(TMK)や不動産特定共同事業といった不動産ファンドの軽減措置は2023年3月末までとなっています。
これらに関しても延長されることを期待しています。

2022年ファンド・投資税制② ~配当が総合課税となる大口株主の範囲拡大~

個人が上場会社から受取る配当金は通常20.315%の源泉分離課税ですが、持株割合3%以上の大口株主の場合は総合課税となります。
今回の税制改正で、個人とその同族会社の持株割合を合算して3%の判定を行うこととなりました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

持株割合3%未満の上場会社から個人株主が配当を受取る場合、20.315%の源泉分離課税となります。
ここで、持株割合が単独で3%未満の個人株主が、その資産管理会社等を通じて3%以上出資しているケースが散見されました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

このような場合にまで分離課税を認めるのは適当ではないため、個人とその個人が50%超を保有する同族会社の持株数を合算して3%の判定を行うこととされました。
これにより、上図のケースでは個人株主が受取る配当金は総合課税(税率は最大55%)となり、上場株式の譲渡損失との通算も認められなくなります。

本改正は、2023年10月1日以後に支払われる上場株式の配当について適用されます。

またこれに関連して、上場会社は持株割合1%以上となる個人株主の情報を、配当金の支払確定日から1ヶ月以内に税務署長に提出することが義務がづけられます。

出資比率1/3超~100%未満の配当は、最大で4%課税

法人が受取る配当金に係る2つの改正は、予定通り2022年4月1日から適用されます。
関連コラム:
(2020/3/31)  2020年ファンド・投資税制② ~受取配当の益金不算入~

出資比率が1/3超~100%未満の投資先(関連法人株式等)からの配当について、以下のいずれか少ない金額に対して課税されることとなりました。
●配当金額の4%
●支払利子の10%
これにより、関連法人株式等からの配当に対して最大4%が課税される点に留意が必要です。

また、100%支配関係にあるグループ会社全体で出資比率を判定できるようになりました。
よって、益金不算入となる割合が上がる可能性があります。

なお、100%子会社株式及び関連法人株式等に係る配当について、2023年10月1日以後は源泉徴収が不要となります。

2022年ファンド・投資税制①  ~10万円未満の即時償却目的の投資が規制~

2022年税制改正は全体として大人しい印象に終わりました。
しかし、投資の抜け穴が塞がれていく流れは変わらず、1点10万円未満の少額資産の大量購入による税金の繰延が不可能になりました。

「少額減価償却資産の大量購入+貸付」スキームによる節税が不可に

近年、少額の減価償却資産を大量に購入し、その全額を損金に計上する節税(利益の繰延)策が広く行われていました。
購入後は事業者等に貸付け、数年間の賃貸収入(+貸付後の売却)で投資額のほとんどを回収できることが最初から予定されているスキームです。
利益が見込まれる法人・個人は、繰延べたい利益の分だけドローンや足場、POS端末等を購入して納税を先送りすることが可能でした。

この「少額資産の購入+貸付」スキームを制限したのが今回の改正です。
具体的には、貸付用資産が下表の制度の適用対象外となりました。

  取得価額 損金
少額減価償却資産 10万円未満 全額
一括償却資産 20万円未満 3年均等償却
中小企業者等の少額特例 30万円未満
(年間300万円まで)
全額

貸付が「主要な事業」に該当すれば損金可能

上記の規制は、「主要な事業として行われる貸付」に対しては適用されません。
例えば、親会社が資産を購入及び管理し、子会社へ貸付けるケースでは、これまで通り損金算入が可能です。

一方、資産を購入した投資家が、貸付後に元々の売主等に買取らせる場合で、賃貸料と買取金額の合計が投資額の概ね90%超であるケースは、「主要な事業」に該当せず規制対象となります。

本改正は、2022年4月1日以後に取得する減価償却資産から適用されます。

2021年ファンド・投資税制③ ~社債利子の総合課税対象範囲が拡大~

同族会社の経営者等による、社債利子を利用した節税策への規制が強化されます。
法人を経由させて受取った社債利子等についても、総合課税の対象となりました。

同族会社を間接的に保有する場合でも社債利子は総合課税に

従来、社債の利子は分離課税(所得税率15.315%+住民税率5%)でした。
このことを利用して、個人が経営する同族会社に社債を発行させるスキームが流行りました。
そして、給与の代わりに社債の利子を受取っていました。
役員報酬(給与)であれば総合課税の対象となり、累進税率(所得税率5~45%+住民税率5%)が適用されるため、これを回避する目的です。

そこで2013年税制改正では、同族会社の株主が受ける一定の社債利子については、総合課税の対象とされました。
しかし、この規制の対象となったのは、同族会社の直接株主のみでした。
すなわち、法人A社の子会社B社が発行する社債を、当該法人A社の個人株主が引受けた場合、社債利子は依然として分離課税のままでした。

よって今回の改正では、間接的に同族会社を保有するケースまで総合課税の対象範囲が拡大されました。
具体的には、同族会社の判定の基礎となる法人株主と特殊関係を有する個人及びその親族等に支払われる社債利子も総合課税となります。

特殊関係には、以下が該当します。
●株式の50%超を保有する場合
●一定の議決権の50%超を有している場合
●合名会社・合資会社・合同会社の社員等の過半数を占めている場合

過去に発行された社債の利子等も対象に

本改正は、2021年4月1日以後に支払われる社債利子及び償還差益が対象となります。
過去既に発行された社債の利子についても、総合課税となりますので注意が必要です。

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