2024年ファンド・投資税制④  ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2024年税制改正により延長されています。
ただし、認定経営力向上計画の認定を受けた不動産に係る登録免許税の軽減措置は廃止されました。 

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年ないし3年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2026年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2027年3月末まで)
0.15%
(2027年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2025年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2025年3月末まで)
0.3%
(2025年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2027年3月末まで)
3.0%
(2027年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2027年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2025年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2025年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2026年3月末まで)

※ 50㎡(新築賃貸マンションは40㎡)以上240㎡以下の新築または居住用中古家屋については、最大1,200万円の控除あり

登録免許税について、今回の税制改正により以下の軽減措置が延長されました。
● 個人の住宅用家屋(50㎡以上の新築または一定の中古)
 所有権移転登記: 2.0%→0.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.15%

一方、認定経営力向上計画に基づき取得した土地・建物に係る登録免許税の税率の軽減措置 は、2024年3月末で廃止されました。

また、不動産取得税に係る軽減措置について、以下の延長が行われました。
【税率】
● 土地(宅地等)及び住宅用家屋への適用税率: 4.0%→3.0%
【課税標準】
● 土地(宅地等): 2分の1に軽減
● 認定経営力向上計画に基づき行われた事業譲受: 6分の5に軽減(6分の1を控除)

 適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。

また、軽減措置の適用期限についてもそれぞれ異なり、延長されずに廃止されるものもあります。
税制改正の大綱もチェックすることをお勧めします。

2024年ファンド・投資税制③  ~倒産防止共済(経営セーフティ共済)の損金に制限~

掛金が全額損金になることで知られる倒産防止共済(経営セーフティ共済)。
2024年税制改正で、損金算入に一定の制限が設けられました。

解約2年以内の掛金は損金不算入に

倒産防止共済は、取引先が倒産した際に連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐ制度です。
無担保・無保証人で掛金の10倍(上限8,000万円)まで借入が可能です。

そして、この掛金に関して以下の通り設計されています。
● 掛金は全額損金に算入できる
● 掛金は月額5,000円~20万円、総額800万円まで拠出可能
● 1年先までの前納が可能
● 40ヶ月以上納めていれば、解約時に掛金の全額が戻る(部分解約は不可)

上記制度を利用して、節税(課税の繰延)や利益調整に活用されていることが問題視されました。
特に、損失が見込まれる年に解約し、解約手当金と損失とを相殺する方法です。
更に、解約直後に再加入し、前納も利用して都合の良い所得・利益水準になるよう調整するケースも見られました。

これでは本来の制度趣旨を逸脱しかねないため、解約2年以内に再加入して拠出した掛金は損金算入を認めないこととしました。
2024年10月1日以後に解約した後の掛金について適用されます。

2024年ファンド・投資税制②  ~譲渡制限ある暗号資産が時価評価の対象外に~

法人がビットコイン等の暗号資産を所有する場合、原則として期末に時価評価する必要があります。
2024年税制改正では、例外的に時価評価を適用除外とできる暗号資産の範囲が拡大されました。
暗号資産に一定の譲渡制限を付すことで、取得原価のままとすることが可能となります。

移転制限で時価評価適用除外に

ビットコイン等の市場性ある暗号資産を個人で所有すれば、売却時に雑所得として所得税・住民税が最大55%課せられます。
法人の場合は売却益に対する税率は約30%と有利ですが、売却せずに保有し続ければ期末に時価評価する必要があります。
すなわち、長期保有するつもりでも、値上がりが続けば期末で含み益に課税されてしまいます。

これではブロックチェーン技術の革新や活用が阻害され、有望なプロジェクトの海外流出を招きます。
そこで、2023年税制改正では、一定の要件を満たす自己発行暗号資産は時価評価の対象外とされました。

更に、2024年税制改正によって、時価評価の対象外となる範囲が第三者が発行した暗号資産まで拡大されました。
ビットコインやイーサリアムでも、以下の要件を満たせば取得価額による評価が可能となります。
① 信託または技術的措置によって、移転(譲渡)が概ね1年以上制限されていること
② 当該移転制限について、交換業者に通知して暗号資産取引業協会のHPで公表させること

移転制限で時価評価適用除外に

上記①の技術的措置について、いくつかの暗号資産交換業者が移転制限サービスを提供しています。
一定金額(例えば1,000万円)以上などの申込条件を設けている交換業者も見られます。
また、口座開設から移転制限措置の完了まで数週間以上かかることもあります。
よって、特に期末日が近い場合、よく条件を確認して早めに手続を行う必要があります。

なお、移転制限によって税務上は特定譲渡制限付暗号資産となりますが、その際に区分変更によるみなし譲渡が適用されます。
従って、例えば期首から保有している暗号資産が期末にかけて値上がりしている場合、本手続を行った時点で期首からの含み益については課税されます。
その後、移転制限を継続する限りは、特定譲渡制限付暗号資産として期末の時価評価は適用除外となります。
但し、移転制限期間が終われば、その時点でやはり区分変更によるみなし譲渡となるでしょう。

移転制限による期末時価評価の適用除外が可能になるのは、2024年4月以後に終了する事業年度からとなります。

2024年ファンド・投資税制①  ~事業再編投資損失準備金の損金割合が最大100%に~

2021年税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度(経営資源集約化税制)が、今回の税制改正で延長・拡充されました。
一定の要件を満たせば、株式購入額の最大100%を損金算入することが可能です。

中小企業による株式取得M&Aで最大100%が損金に

中小企業事業再編投資損失準備金は、株式購入スキームにおいてのみ適用されます。
買手企業が簿外リスク等に備えて投資損失準備金を積立てた場合、従前は取得価額の最大70%を損金計上することが可能でした。

関連コラム:
(2021/6/28) 2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

今回の改正により以下の通り見直されます。
● 2027年3月31日まで3年間延長
● 表明保証保険契約を締結している場合は適用不可
● 拡充枠の創設(下表参照)

  現行枠 拡充枠
(現行枠と併用可)
積立金額の上限
(損金割合)
株式購入価額の70% 初回M&A:株式購入価額の90%
2回目以降:株式購入価額の100%
対象株式 10億円以下 1億円~100億円
適用対象者 中小企業者 中小企業者または中堅企業で
過去5年以内にM&Aを行った者
認定を受ける計画 経営力向上計画
(中小企業等経営強化法)
特別事業再編計画
(産業競争力強化法)
据置期間 5年 10年

オープンイノベーション促進税制も2026年3月まで延長

なお、株式投資を支援する税制として、オープンイノベーション促進税制もあります。

関連コラム:
(2023/7/31) 2023年ファンド・投資税制②  ~M&Aでも25%所得控除が可能に~

一定の要件を満たす株式投資に対し、取得価額の25%を所得控除することができる制度です。
中小企業事業再編投資損失準備金制度と異なり、新規出資(増資引受)にも適用されます。
こちらも2026年3月31日まで延長されており、場面によって両制度を上手に選択して活用することが望ましいと考えます。

2023年ファンド・投資環境の変化

2023年のファンド・投資環境は、ロシアとウクライナ、イスラエルといった戦争や、各国の物価高騰と金利政策に揺れながらも堅調に推移したと言えそうです。
新型コロナウィルス感染症の影響を乗り越え、経済活動も活性化しています。

ファンドについても、株式や不動産の他、事業ファンドの組成に関するご相談もありました。
新しい取組みや他社との協業を積極的に仕掛けていくご様子に刺激を受けました。

新NISAに個人投資家から大きな期待

2023年改正項目 影響 内容
新NISAの登場 株式 最大1,800万円まで恒久的に非課税
オープンイノベーション促進税制の拡充 株式 M&A型でも適用可
スタートアップへの再投資を非課税に 株式 株式譲渡益の再投資で20億円まで非課税に
不動産取得税、登録免許税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
自己発行の暗号資産は時価評価の対象外に 暗号資産 自己が発行した暗号資産は時価評価不要に
コインランドリーや暗号資産の償却規制 全般 コインランドリー投資は即時償却の対象外に

2023年の投資に関する世間の話題をさらったのは、何といっても新NISAでしょうか。
年間360万円(内、成長投資枠240万円)、最大1,800万円までの投資について、運用益や配当が非課税になります。
一般的な個人が将来の資産形成を考える上で、ゲームのルールが変わったと言えるかもしれません。

この他、オープンイノベーション促進税制の拡充や、不動産流通課税の軽減措置延長も嬉しい改正です。
一方、コインランドリーやマイニングマシンへの投資に関する償却規制が設けられました。
事業投資は優遇、富裕層の過度な節税は防止とメリハリが見られます。

2024年改正は投資への影響小さいか

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● 時価評価の対象外となる暗号資産の範囲拡大
● オープンイノベーション促進税制、事業再編投資損失準備金制度の延長・拡充
● 倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約後の損金算入制限

2023年と比較すれば大きな影響はないかもしれません。
しかし、倒産防止共済の損金算入制限など、見落とすと思わぬ落とし穴に嵌まる可能性もあります。
改正項目は、対象範囲や適用時期含め丁寧に確認することが重要と考えます。

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