2024年ファンド・投資税制②  ~譲渡制限ある暗号資産が時価評価の対象外に~

法人がビットコイン等の暗号資産を所有する場合、原則として期末に時価評価する必要があります。
2024年税制改正では、例外的に時価評価を適用除外とできる暗号資産の範囲が拡大されました。
暗号資産に一定の譲渡制限を付すことで、取得原価のままとすることが可能となります。

移転制限で時価評価適用除外に

ビットコイン等の市場性ある暗号資産を個人で所有すれば、売却時に雑所得として所得税・住民税が最大55%課せられます。
法人の場合は売却益に対する税率は約30%と有利ですが、売却せずに保有し続ければ期末に時価評価する必要があります。
すなわち、長期保有するつもりでも、値上がりが続けば期末で含み益に課税されてしまいます。

これではブロックチェーン技術の革新や活用が阻害され、有望なプロジェクトの海外流出を招きます。
そこで、2023年税制改正では、一定の要件を満たす自己発行暗号資産は時価評価の対象外とされました。

更に、2024年税制改正によって、時価評価の対象外となる範囲が第三者が発行した暗号資産まで拡大されました。
ビットコインやイーサリアムでも、以下の要件を満たせば取得価額による評価が可能となります。
① 信託または技術的措置によって、移転(譲渡)が概ね1年以上制限されていること
② 当該移転制限について、交換業者に通知して暗号資産取引業協会のHPで公表させること

移転制限で時価評価適用除外に

上記①の技術的措置について、いくつかの暗号資産交換業者が移転制限サービスを提供しています。
一定金額(例えば1,000万円)以上などの申込条件を設けている交換業者も見られます。
また、口座開設から移転制限措置の完了まで数週間以上かかることもあります。
よって、特に期末日が近い場合、よく条件を確認して早めに手続を行う必要があります。

なお、移転制限によって税務上は特定譲渡制限付暗号資産となりますが、その際に区分変更によるみなし譲渡が適用されます。
従って、例えば期首から保有している暗号資産が期末にかけて値上がりしている場合、本手続を行った時点で期首からの含み益については課税されます。
その後、移転制限を継続する限りは、特定譲渡制限付暗号資産として期末の時価評価は適用除外となります。
但し、移転制限期間が終われば、その時点でやはり区分変更によるみなし譲渡となるでしょう。

移転制限による期末時価評価の適用除外が可能になるのは、2024年4月以後に終了する事業年度からとなります。

2024年ファンド・投資税制①  ~事業再編投資損失準備金の損金割合が最大100%に~

2021年税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度(経営資源集約化税制)が、今回の税制改正で延長・拡充されました。
一定の要件を満たせば、株式購入額の最大100%を損金算入することが可能です。

中小企業による株式取得M&Aで最大100%が損金に

中小企業事業再編投資損失準備金は、株式購入スキームにおいてのみ適用されます。
買手企業が簿外リスク等に備えて投資損失準備金を積立てた場合、従前は取得価額の最大70%を損金計上することが可能でした。

関連コラム:
(2021/6/28) 2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

今回の改正により以下の通り見直されます。
● 2027年3月31日まで3年間延長
● 表明保証保険契約を締結している場合は適用不可
● 拡充枠の創設(下表参照)

  現行枠 拡充枠
(現行枠と併用可)
積立金額の上限
(損金割合)
株式購入価額の70% 初回M&A:株式購入価額の90%
2回目以降:株式購入価額の100%
対象株式 10億円以下 1億円~100億円
適用対象者 中小企業者 中小企業者または中堅企業で
過去5年以内にM&Aを行った者
認定を受ける計画 経営力向上計画
(中小企業等経営強化法)
特別事業再編計画
(産業競争力強化法)
据置期間 5年 10年

オープンイノベーション促進税制も2026年3月まで延長

なお、株式投資を支援する税制として、オープンイノベーション促進税制もあります。

関連コラム:
(2023/7/31) 2023年ファンド・投資税制②  ~M&Aでも25%所得控除が可能に~

一定の要件を満たす株式投資に対し、取得価額の25%を所得控除することができる制度です。
中小企業事業再編投資損失準備金制度と異なり、新規出資(増資引受)にも適用されます。
こちらも2026年3月31日まで延長されており、場面によって両制度を上手に選択して活用することが望ましいと考えます。

2023年ファンド・投資環境の変化

2023年のファンド・投資環境は、ロシアとウクライナ、イスラエルといった戦争や、各国の物価高騰と金利政策に揺れながらも堅調に推移したと言えそうです。
新型コロナウィルス感染症の影響を乗り越え、経済活動も活性化しています。

ファンドについても、株式や不動産の他、事業ファンドの組成に関するご相談もありました。
新しい取組みや他社との協業を積極的に仕掛けていくご様子に刺激を受けました。

新NISAに個人投資家から大きな期待

2023年改正項目 影響 内容
新NISAの登場 株式 最大1,800万円まで恒久的に非課税
オープンイノベーション促進税制の拡充 株式 M&A型でも適用可
スタートアップへの再投資を非課税に 株式 株式譲渡益の再投資で20億円まで非課税に
不動産取得税、登録免許税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
自己発行の暗号資産は時価評価の対象外に 暗号資産 自己が発行した暗号資産は時価評価不要に
コインランドリーや暗号資産の償却規制 全般 コインランドリー投資は即時償却の対象外に

2023年の投資に関する世間の話題をさらったのは、何といっても新NISAでしょうか。
年間360万円(内、成長投資枠240万円)、最大1,800万円までの投資について、運用益や配当が非課税になります。
一般的な個人が将来の資産形成を考える上で、ゲームのルールが変わったと言えるかもしれません。

この他、オープンイノベーション促進税制の拡充や、不動産流通課税の軽減措置延長も嬉しい改正です。
一方、コインランドリーやマイニングマシンへの投資に関する償却規制が設けられました。
事業投資は優遇、富裕層の過度な節税は防止とメリハリが見られます。

2024年改正は投資への影響小さいか

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● 時価評価の対象外となる暗号資産の範囲拡大
● オープンイノベーション促進税制、事業再編投資損失準備金制度の延長・拡充
● 倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約後の損金算入制限

2023年と比較すれば大きな影響はないかもしれません。
しかし、倒産防止共済の損金算入制限など、見落とすと思わぬ落とし穴に嵌まる可能性もあります。
改正項目は、対象範囲や適用時期含め丁寧に確認することが重要と考えます。

2022年ファンド・投資税制② ~配当が総合課税となる大口株主の範囲拡大~

個人が上場会社から受取る配当金は通常20.315%の源泉分離課税ですが、持株割合3%以上の大口株主の場合は総合課税となります。
今回の税制改正で、個人とその同族会社の持株割合を合算して3%の判定を行うこととなりました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

持株割合3%未満の上場会社から個人株主が配当を受取る場合、20.315%の源泉分離課税となります。
ここで、持株割合が単独で3%未満の個人株主が、その資産管理会社等を通じて3%以上出資しているケースが散見されました。

個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で上場株の配当が総合課税に

このような場合にまで分離課税を認めるのは適当ではないため、個人とその個人が50%超を保有する同族会社の持株数を合算して3%の判定を行うこととされました。
これにより、上図のケースでは個人株主が受取る配当金は総合課税(税率は最大55%)となり、上場株式の譲渡損失との通算も認められなくなります。

本改正は、2023年10月1日以後に支払われる上場株式の配当について適用されます。

またこれに関連して、上場会社は持株割合1%以上となる個人株主の情報を、配当金の支払確定日から1ヶ月以内に税務署長に提出することが義務がづけられます。

出資比率1/3超~100%未満の配当は、最大で4%課税

法人が受取る配当金に係る2つの改正は、予定通り2022年4月1日から適用されます。
関連コラム:
(2020/3/31)  2020年ファンド・投資税制② ~受取配当の益金不算入~

出資比率が1/3超~100%未満の投資先(関連法人株式等)からの配当について、以下のいずれか少ない金額に対して課税されることとなりました。
●配当金額の4%
●支払利子の10%
これにより、関連法人株式等からの配当に対して最大4%が課税される点に留意が必要です。

また、100%支配関係にあるグループ会社全体で出資比率を判定できるようになりました。
よって、益金不算入となる割合が上がる可能性があります。

なお、100%子会社株式及び関連法人株式等に係る配当について、2023年10月1日以後は源泉徴収が不要となります。

2021年ファンド・投資税制③ ~社債利子の総合課税対象範囲が拡大~

同族会社の経営者等による、社債利子を利用した節税策への規制が強化されます。
法人を経由させて受取った社債利子等についても、総合課税の対象となりました。

同族会社を間接的に保有する場合でも社債利子は総合課税に

従来、社債の利子は分離課税(所得税率15.315%+住民税率5%)でした。
このことを利用して、個人が経営する同族会社に社債を発行させるスキームが流行りました。
そして、給与の代わりに社債の利子を受取っていました。
役員報酬(給与)であれば総合課税の対象となり、累進税率(所得税率5~45%+住民税率5%)が適用されるため、これを回避する目的です。

そこで2013年税制改正では、同族会社の株主が受ける一定の社債利子については、総合課税の対象とされました。
しかし、この規制の対象となったのは、同族会社の直接株主のみでした。
すなわち、法人A社の子会社B社が発行する社債を、当該法人A社の個人株主が引受けた場合、社債利子は依然として分離課税のままでした。

よって今回の改正では、間接的に同族会社を保有するケースまで総合課税の対象範囲が拡大されました。
具体的には、同族会社の判定の基礎となる法人株主と特殊関係を有する個人及びその親族等に支払われる社債利子も総合課税となります。

特殊関係には、以下が該当します。
●株式の50%超を保有する場合
●一定の議決権の50%超を有している場合
●合名会社・合資会社・合同会社の社員等の過半数を占めている場合

過去に発行された社債の利子等も対象に

本改正は、2021年4月1日以後に支払われる社債利子及び償還差益が対象となります。
過去既に発行された社債の利子についても、総合課税となりますので注意が必要です。

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