投資事業有限責任組合の会計及び監査基準改正、監査報告書や注記を見直し

「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正が公表されました。
有期限性及び継続企業の前提に関する注記が見直された他、監査報告書の文例改正にも対応しています。

有期限性及び継続企業の前提注記の文例及び記載区分を見直し

事業の存続期間が設立当初より定められている投資事業有限責任組合等における、有期限性及び継続企業の前提に関する注記のひな型や記載上の注意が見直されました。

具体的には、「存続期限までの期間が1年未満となった場合に、存続期間内での資産の回収及び負債の返済が完了されないおそれがある状況が、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」に該当する旨」を、実際にどのパターンであっても記載することとされました。
また、当該状況に当てはまらない場合は、これに該当しない旨を明記することとなりました。

なお、従前は上記注記を「2.重要な会計方針」に記載していましたが、今後は「1.財務諸表等作成の基礎」に記載します。

監査報告書文例は電子署名等に対応

この他、有責組合会計規則に準拠した財務諸表等に対する監査報告書の文例も、以下の通り見直されました。
2021年9月1日施行の公認会計士法改正等に対応したものです。

● 電子署名を行う場合、その氏名を表示する旨
● 継続企業の前提注記がある場合、強調事項として記載
● 存続期限までに資産の回収を完了し、現金及び預金のみが残存している場合の文例追加

今回の改正は2021年9月1日から適用となります。

関連コラム:
(2015/2/22) 投資事業有限責任組合の基準が今年も改正、ファンド監査報告書や注記に影響

2021年ファンド・投資税制③ ~社債利子の総合課税対象範囲が拡大~

同族会社の経営者等による、社債利子を利用した節税策への規制が強化されます。
法人を経由させて受取った社債利子等についても、総合課税の対象となりました。

同族会社を間接的に保有する場合でも社債利子は総合課税に

従来、社債の利子は分離課税(所得税率15.315%+住民税率5%)でした。
このことを利用して、個人が経営する同族会社に社債を発行させるスキームが流行りました。
そして、給与の代わりに社債の利子を受取っていました。
役員報酬(給与)であれば総合課税の対象となり、累進税率(所得税率5~45%+住民税率5%)が適用されるため、これを回避する目的です。

そこで2013年税制改正では、同族会社の株主が受ける一定の社債利子については、総合課税の対象とされました。
しかし、この規制の対象となったのは、同族会社の直接株主のみでした。
すなわち、法人A社の子会社B社が発行する社債を、当該法人A社の個人株主が引受けた場合、社債利子は依然として分離課税のままでした。

よって今回の改正では、間接的に同族会社を保有するケースまで総合課税の対象範囲が拡大されました。
具体的には、同族会社の判定の基礎となる法人株主と特殊関係を有する個人及びその親族等に支払われる社債利子も総合課税となります。

特殊関係には、以下が該当します。
●株式の50%超を保有する場合
●一定の議決権の50%超を有している場合
●合名会社・合資会社・合同会社の社員等の過半数を占めている場合

過去に発行された社債の利子等も対象に

本改正は、2021年4月1日以後に支払われる社債利子及び償還差益が対象となります。
過去既に発行された社債の利子についても、総合課税となりますので注意が必要です。

2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

中小企業のM&Aを支援する経営資源集約化税制が創設されました。
株式譲渡スキームで一定の要件を満たす場合、買手は取得価額の最大70%を損金に計上することができます。

中小企業による株式取得M&Aで最大70%が損金に

本税制は、事業譲渡スキームに比べて簿外債務や偶発債務等の遮断が難しい株式譲渡スキームが対象とされます。
買手企業がこれらのリスクに備えて投資損失準備金を積立てた場合、取得価額の最大70%を損金計上することが可能となります。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制の主な要件:
● 青色申告書を提出する中小企業者
 ※ 過去3年間の平均所得が15億円超の適用除外事業者を除く
● 2024年3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けること
● 株式等の取得価額が10億円以下

関連コラム:
(2020/2/29) 2020年ファンド・投資税制① ~ベンチャー投資税制で25%控除~

5年間据置後、6~10年目にかけて均等取崩

投資時に積立てた準備金は、簿外債務が発生した場合や株式を売却した場合等に取崩します。
そして5年間据置後、5年にわたって準備金残高の均等額を取崩して益金算入します。

上図の例では、据置期間中に取崩がなかった場合、6~10年目に毎期1,400万円が益金計上されます。
よって課税の繰延に過ぎないものの、足元で多額の所得が見込まれる中小企業の投資を後押しする効果が期待されます。

更に、本制度の認定を受けた中小企業者は、以下に関して優遇があります。
● 中小企業経営強化税制のD類型(経営資源集約化設備)の適用
● 所得拡大促進税制の上乗せ

なお、会計税務処理として、準備金方式と剰余金処分方式のいずれも可能です。
P/L損益への影響を回避したい場合、剰余金処分方式の選択をお薦めします。

①準備金方式
(Dr)投資有価証券   100,000,000円 (Cr)現預金            100,000,000円
   事業再編投資損失 70,000,000円    中小企業事業再編投資損失準備金 70,000,000円

②剰余金処分方式
(Dr)投資有価証券  100,000,000円 (Cr)現預金            100,000,000円
  繰越利益剰余金   70,000,000円    中小企業事業再編投資損失準備金 70,000,000円
 →別表四で7,000万円を減算

投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2019年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2019年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合の件数が大幅に増加しており、ベンチャー投資等が活況であることが窺えます。

投資事業有限責任組合が昨年に引続き大幅増加

2019年度(2019年4月期~2020年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約110万円、特定目的会社で約160万円と、
いずれも前年比で若干増加しています。
注目すべきはファンド監査の件数で、投資事業有限責任組合が986件(前年比+141件)と大きく増加しました。
ベンチャーファンドを設立する場合、税制やファンド監査による安心感もあり真っ先に選択肢に挙げられるスキームです。
他方、特定目的会社も436件(前年比+11件)の微増となりました。

世界的な金融緩和は当面続く見通しで、今年もベンチャーファンドや不動産ファンドの設立に関する需要は底堅いと言えそうです。

2021年ファンド・投資税制① ~登録免許税、不動産取得税の軽減延長~

登録免許税及び不動産取得税に関する軽減措置が、2021年税制改正により延長される見通しです。
ファンドを設立する方だけでなく、一般の個人・法人にも恩恵があります。

登録免許税、不動産取得税に係る軽減措置が2年ないし3年延長

【登録免許税】

  所有権移転
(通常税率 2.0%)
所有権保存
(通常税率 0.4%)
土地の売買 1.5%
 (2023年3月末まで)
0.4%
個人の住宅用家屋
(50㎡以上の新築または一定の中古)
0.3%
(2022年3月末まで)
0.15%
(2022年3月末まで)
特定目的会社、
投資信託、投資法人
1.3%
(2023年3月末まで)
0.4%
不動産特定共同事業法 1.3%
(2023年3月末まで)
0.3%
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の認定を受けた土地・建物の取得 事業譲受:1.6%
会社分割:0.4%
(2022年3月末まで)

【不動産取得税】

  土地(宅地) 住宅用家屋 住宅以外の家屋
【税率】 3.0%
(2024年3月末まで)
3.0%
(2024年3月末まで)
4.0%
【不動産取得税の計算( = 課税標準×上記税率)】
一般 不動産価格×1/2×税率
(2024年3月末まで)
不動産価格×税率
(※)
不動産価格×税率
特定目的会社、
投資信託、投資法人
不動産価格×2/5×税率
(2023年3月末まで)
不動産特定共同事業法 不動産価格×1/2×税率
(2023年3月末まで)
経営力向上計画の
認定を受けた取得
(事業譲受のみ)
不動産価格×5/6×税率
(2022年3月末まで)

※ 50㎡(新築賃貸マンションは40㎡)以上240㎡以下の新築または居住用中古家屋については、最大1,200万円の控除あり

登録免許税については、今回の税制改正により以下の軽減措置が延長される予定です。
● 土地売買の所有権移転登記: 2.0% →1.5%
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等が取得する一定の不動産に係る所有権移転登記: 2.0% →1.3%
● 不動産特定共同事業事業法に基づき取得する一定の不動産に係る登記
 所有権移転登記: 2.0%→1.3%
 所有権保存登記: 0.4%→0.3%

一方、不動産取得税に係る軽減措置については、以下の延長が行われる予定です。
【税率】
● 土地(宅地等)及び住宅用家屋への適用税率: 4.0%→3.0%
【課税標準】
● 土地(宅地等): 2分の1に軽減
● 特定目的会社、投資信託、投資法人等: 5分の2に軽減(5分の3を控除)
● 不動産特定共同事業者: 2分の1に軽減

適用の可否や軽減効果を検討するにあたり、新築・中古、用途、面積等の要件を細かく確認する必要があります。
特に不動産ファンドでは物件の金額規模が大きいことから、税率がコンマ数%軽減されるだけで収支に大きな影響を与えます。
よって、軽減措置の要件や期限を正確に把握しておくことが重要です。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 23