2023年ファンド・投資税制③  ~コインランドリーやマイニングマシン投資の規制~

投資家の行き過ぎた減価償却を規制する流れが続いています。
2023年税制改正では、一定のコインランドリーやマイニングマシンが投資優遇税制の対象から除外されました。

コインランドリー節税に一定の歯止め

購入した資産が中小企業経営強化税制の適用対象であれば、即時(100%)償却が認められます。
一部の富裕層や投資家はこれを利用し、所得が見込まれればコインランドリーやマイニングマシンを購入して、その全額を損金に計上する節税(税金の繰延)を行っていました。
今回の税制改正では、これに一定の歯止めが掛けられました。

  中小企業経営強化税制 中小企業投資促進税制
減価償却 100% 通常の償却+30%
税額控除 10%
(資本金3,000万円超の法人は7%)
7%
(資本金3,000万円超の法人は不可)
2023年税制改正
により優遇除外
コインランドリー業/
暗号資産マイニング業
コインランドリー業
優遇除外
されるケース
主要な事業ではなく、管理の概ね全部を他者に委託するもの 同左

コインランドリー業や暗号資産マイニング業が「主要な事業」に該当すれば、規制はされません。
例えば、以下のケースであれば、これまで通り優遇税制による減価償却や税額控除が可能です。
● 自社の役員や従業員の多くが携わっている事業
● 新規事業として自社の土地や建物を活用して行う事業
● ある主要な事業の利用者に向けたサービス提供のために行う事業

また、「主要な事業」でなくても、事業の全体管理や業務の全部または一部を自社の役員や従業員が実施している場合は、規制対象からは外れます。
すなわち、事業として設備投資するのではなく資金のみ拠出する投資家が、優遇税制の対象から除外されることになります。
10万円未満の少額資産、個人の海外不動産に続き、富裕層が好む減価償却の抜け穴が塞がれていきます。

関連コラム:
(2020/11/30)  2020年ファンド・投資税制④ ~海外不動産の節税防止~
(2022/2/28)  2022年ファンド・投資税制①  ~10万円未満の即時償却目的の投資が規制~

投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2021年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2021年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数が2年連続で前年度比1割以上増加しています。

投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに大幅増加

2021年度(2021年4月期~2022年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬(2021年度)

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合で約120万円、特定目的会社で約160万円と、
いずれも前年比で若干増加しています。
またファンド監査の件数は、投資事業有限責任組合が1,283件(前年比+150件)、特定目的会社も606件(前年比+88件)といずれも1割以上増加しています。

新型コロナウィルス感染症の影響を残しながらも、経済や投資の流れは活発化しつつあります。
海外投資家も訪日して国内の企業や不動産を直接目にすることで、投資意欲が高まっていると推測されます。
加えて、為替相場の円安も後押ししているでしょう。
景気減速や政情不安等の懸念はありますが、ファンドの設立も堅調に推移しています。

2023年ファンド・投資税制② ~M&Aでも25%所得控除が可能に~

一定の要件を満たすベンチャー投資について投資額の25%を所得控除できるオープンイノベーション促進税制。
従来は新規出資する場合のみが対象でしたが、既存株式を取得するM&A型も新設されました。

5億円以上の株式取得M&Aでも25%所得控除

オープンイノベーション促進税制は、経済産業省の証明を受けたスタートアップ企業である「特別新事業開拓事業者」への株式投資に対し、取得価額の25%を所得控除する税制です。
従来の新規出資型に加え、2023年税制改正ではM&A型が新設されました。

  新規出資型 【新設】M&A型
取得の形態 取得の形態 既存株主から議決権の50%超を購入
下限
(1件当たり)
中小企業:1,000万円以上
大企業:1億円以上
外国法人:5億円以上
5億円以上
上限
(1件当たり)
~50億円
(所得控除12.5億円)
~200億円
(所得控除50億円)
投資先の条件 設立10年未満
(研究開発型ベンチャーは15年)
設立10年未満の内国法人のみ
保有見込期間 3年 5年
取崩し
(益金算入)
事由
・3年以内に売却 等 5年以内に成長要件を達成できなかった場合
過半数を有しなくなった場合 等

関連コラム:
(2020/2/29) 2020年ファンド・投資税制① ~ベンチャー投資税制で25%控除~
(2021/6/28) 2021年ファンド・投資税制② ~中小企業M&Aで株式購入額の7割損金に~

M&A型は成長要件未達や将来売却により節税メリット消失

新規出資型は3年以内の売却等、一定の取崩し事由に該当した場合には所得控除された額が益金算入されます。
すなわち、3年以上保有後に売却すれば、トータルで125%損金計上できる可能性があります。
(出資時25% + 売却時100%)

【新規出資型の主な取崩し(益金算入)事由】
● 株式を3年以内に譲渡した場合
● 経済産業省大臣の証明が取消された場合
● 投資事業有限責任組合等の出資額割合を変更した場合(ファンド経由で投資するケース)
● 配当を受けた場合
● 投資簿価を減額した場合 等

これに対し、M&A型においては5年以内に成長要件を達成できなかった場合、5年経過後に所得控除された25%を益金算入します。
更に成長要件を達成した場合でも、5年経過していても売却や解散した時点でやはり益金算入します。
5年以内に成長要件を満たし、その後も50%超保有し続けない限りいずれ節税メリットはなくなると言えます。
なお、成長要件は5年内に売上1.7倍かつ33億円以上、研究開発費1.9倍以上等いくつかの類型があります。

本制度の他に株式投資を支援する税制として、株式取得額の70%を損金算入できる経営資源集約化税制(上限額10億円)があります。
いずれの制度も、株式取得の期限は2024年3月31日までとされています。

2023年ファンド・投資税制① ~新NISAの登場~

2023年税制改正の中で、多くの国民に歓迎されたのはNISAの改正でしょう。
投資枠の大幅拡大、そして非課税期間の無期限化は、株式に投資する個人だけではなくファンド運用者の間でも話題になりました。

年間最大360万円、生涯投資枠は1,800万円に拡大

NISA(少額投資非課税制度)の口座で株式や投資信託に投資した場合、運用益や配当が非課税となります。
通常は20.315%かかる税金がゼロとなるこの制度はしかし、年間投資枠が小さいことや非課税保有期間が5年(一般NISA)ないし20年(つみたてNISA)に限定されていることがネックでした。
今回の改正で、下表の通り大幅に改善されました。

新NISAの概要

年間投資枠はつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円に拡大されました。
これらは併用可能なため、最大で360万円まで投資することができます。

また生涯投資枠はトータル1,800万円で、この内、成長投資枠は1,200万円までとなります。
つみたて投資枠だけで1,800万円投資することも、つみたて投資枠600万円+成長投資枠1,200万円と併用することも可能です。
そして、売却益や配当が非課税となる期間は無期限です。

投資枠は翌年復活

投資した株式等を売却した場合、投資枠は簿価残高(投資元本)ベースで翌年復活します。
例えば、既に1,600万円分の投資を行っている場合、追加で投資できるのは最大で200万円です。
ここで、簿価ベースで300万円分を売却すれば、翌年にはその分の投資枠が再利用できます。
よって、今年他に売買しなければ簿価残高は1,300万円(=1,600万円 - 300万円)となり、翌年以降に追加投資できるのは計500万円となります。

新NISAが開始するのは2024年1月からとなります。
なお、現行のNISA制度は2023年12月末で買付終了となり、新NISAの外枠で非課税措置が適用され続けます。

関連コラム:
(2014/7/13)  NISAの注意点
(2019/11/11)  NISAの年齢要件が20歳から18歳へ引下げへ

2022年ファンド・投資環境の変化

2022年のファンド・投資環境は、ロシアのウクライナ侵攻によるショックに揺れた一年となりました。
また、アメリカを始めとする諸外国はインフレを抑制すべく政策金利の引き上げに踏み切り、日本も大きな転換点を迎えたようであります。

一方、新型コロナウィルスに関しては、未だ気を緩めることはできないものの、日常生活や経済活動は正常化へ向けて動いているのを感じます。

こうした中、ファンドについても、組成を積極的に進める意向と慎重に検討する姿勢の両方が見られました。

富裕層向けの節税対策を封じ込め

2022年改正項目 影響 内容
オープンイノベーション促進税制を延長 株式 ベンチャー投資の25%所得控除を2年延長
不動産取得税、登録免許税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
受取配当金の益金不算入規定の判定 株式 出資比率の判定は100%支配関係にあるグループ全体ベースで
× 即時償却目的の少額資産投資を規制 全般 「10万円未満資産の大量購入+貸付」スキームによる税金繰延が不可に
× 配当が総合課税となる大株主の範囲拡大 株式 個人と同族会社の持株割合が合計3%以上で総合課税に

2022年税制改正の中で大きな反響を呼んだのは、少額資産の大量購入による節税に対する規制でした。
10万円未満の減価償却資産は即時償却が可能であることから、従前は黒字企業がドローンや足場等を大量に購入して税金の繰延を図るケースがよく見られました。
今後は少額資産を購入後に貸付ける場合、原則として即時償却ができなくなります。

この他、配当所得が総合課税となる大口株主の範囲が拡大されました。
3%ルールは、個人とその同族会社の持株割合を合算して判定することとなります。

他方、オープンイノベーション促進税制、不動産取得税や登録免許税の軽減といった従来の優遇措置は延長されました。

2023年改正はNISAの拡充に期待

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● NISA制度の拡充・恒久化
● スタートアップへの再投資に係るキャピタルゲイン非課税制度の創設
● コインランドリーやマイニングマシンへの投資を税制優遇対象から除外

中でも岸田政権が掲げる資産所得倍増計画の目玉として、NISAの拡充が話題です。
国民の将来の生活を豊かにする制度となるよう期待しています。

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