投資事業有限責任組合等のファンド監査報酬(2023年度)

ファンド監査の報酬等について、公認会計士協会が2023年度の状況を公表しました。
投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数及び平均報酬額の増加が続いています。

投資事業有限責任組合、特定目的会社ともに件数及び報酬水準が伸びる

2023年度(2023年4月期~2024年3月期)におけるファンド監査の報酬水準は下表の通りです。

ファンド監査報酬の平均は投資事業有限責任組合が約130万円、特定目的会社が約190万円と、いずれも前年比でわずかに増加しました。
またファンド監査の件数も、投資事業有限責任組合が1,587件(前年比+177件)、特定目的会社も761件(前年比+67件)といずれも増加しています。

インフレの影響は監査業界にも及んでいます。
人手不足、システム投資の負担増といった傾向は今後も続くと予想され、監査報酬が大きく下がることは当面はなさそうです。

投資事業有限責任組合のLLPによるGP登記が可能に

投資事業有限責任組合(LPS)は、無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)から構成されます。
無限責任組合員はファンドの運営を行い、有限責任組合員は投資家として資金を拠出します。
この無限責任組合員になれるのは個人や法人だけではなく、有限責任事業組合(LLP)も可能です。
2023年6月に登記規則が改正され、投資事業有限責任組合の無限責任組合員として、有限責任事業組合を登記することができるようになりました。

LPSのGPとしてLLPを登記することが可能に

投資事業有限責任組合の設立にあたって、有限責任事業組合を組成して無限責任組合員とするケースがあります。
例えば、ファンドを運営する個人や法人が無限責任を負うのを回避するといった理由があります。

この場合であっても、従前は無限責任組合員として登記できるのは個人または法人のみでした。
よって、有限責任事業組合の組合員全員、またはその代表者を無限責任組合員として登記することが行われてました。

今回の登記規則の改正により、有限責任事業組合自身が無限責任組合員として登記できるようになります。
また、既に設立されている投資事業有限責任組合についても、更正の申請により上記扱いが認められるとされています。

投資事業有限責任組合のLLPによるGP登記が可能に

投資事業有限責任組合の柔軟な設計に、登記実務も対応されるようになったのは望ましいことと考えます。

投資事業有限責任組合の海外投資制限が緩和

2024年は投資事業有限責任組合(LPS)に関する法律や会計規則の改正が相次ぎました。
会計面では、公正価値評価が原則とされた他、監査意見の範囲に係る修正もありました。

更に運用面でも、海外投資規制が緩和されるなどの法改正が行われています。

実質支配する外国株式投資は制限対象外に

LPSには、外国法人の株式等への出資割合を50%未満としなければならいない制限があります。
日本の経済活力の向上が元々の制度趣旨として掲げられているためです。
この出資割合は、海外投資額が総組合員の出資履行金額総額に占める割合とされています。

2021年の法改正により、産業競争力強化法に基づく海外投資規制の特例が設けられました。
LPSが経済産業大臣の認定を受けて行う一定の海外投資は、50%比率規制の適用が除外されます。

更に2024年の改正により、国内事業者が経営を実質的に支配し、または経営に重要な影響を及ぼす外国法人も、50%比率規制の対象となる外国法人の範囲から除外されました。
LPSを活用した海外事業投資の促進を図ったものです。

関連コラム:
(2024/9/30) 投資事業有限責任組合は公正価値評価が原則に
(2024/10/31) 2024年投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱いの改正

暗号資産や合同会社の持分もLPSの投資対象に

その他の改正事項として、LPSの投資対象が拡大しました。
暗号資産及び合同会社の出資持分が対象に追加され、スタートアップへの投資環境が改善されました

なお、LPSは法人格を有しないため、合同会社の社員にはなれません。
よって、代わりに無限責任組合員が合同会社の定款や登記簿謄本に記載されることになります。

今回の法改正により、LPSによる事業展開の幅が広がることが期待されます。

2024年ファンド・投資環境の変化

2024年のファンド・投資環境は、各国中央銀行の政策が転換期を迎えた年となりました。
欧米や豪州などが政策金利の引下げに踏み切った一方、日本は利上げが注目されました。

ファンドに関しては、株高や堅調な不動産市場に支えられて新規案件のご相談も多く、投資意欲の高さを伺わせました。

中小企業のM&Aを税制が後押し

2024年改正項目 影響 内容
事業再編投資損失準備金制度の拡充 株式 株式取得M&Aで損金割合が最大100%に
オープンイノベーション促進税制の延長 株式 25%所得控除のM&A税制が2026年3月末まで延長
暗号資産の譲渡制限で時価評価対象外に 暗号資産 譲渡制限ある暗号資産が時価評価の対象外に
登録免許税、不動産取得税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
× 金・地金等の消費税法制限 仕入200万円で2年間免税事業者等の特例不可に
× 倒産防止共済の損金に制限 全般 解約2年以内の掛金は損金不算入に

2024年の投資関連税制では、中小企業のM&Aを後押しする改正が続きました。
事業再編投資損失準備金制度では、株式取得額の最大100%が損金算入される拡充枠が新設されました。
また、オープンイノベーション促進税制も2026年3月末まで延長されています。

この他、法人が保有する暗号資産の含み益課税も、適用除外となる範囲が拡大されました。

一方、金・地金等の売買や倒産防止共済を利用した抜け穴的な節税には一定の歯止めが掛けられました。

2025年改正ではiDeCoの拠出限度額引上げが注目

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● 企業版ふるさと納税の3年延長
● エンジェル税制の見直し
● iDeCoの拠出限度額の引上げ

iDeCoの拠出限度額の引上げにより、貯蓄から投資への流れは一層加速する可能性があります。
原則60歳まで引出せないなどのデメリットも検討の上、上手に活用すれば資産形成に大きなプラスとなるでしょう。

2024年ファンド・投資税制⑤  ~金地金等を200万円以上購入した場合の制限~

金(ゴールド)の価格がついに1g当たり15,000円を突破し、大きな話題となりました。
その金地金等について、2024年税制改正により消費税法上の制限措置が設けられます。

年間200万円以上の仕入で2年間免税事業者等の特例不可に

現行は1,000万円以上の高額特定資産を購入して仕入税額控除を受けた場合、その後2年間は免税事業者になれません。
また、簡易課税制度を適用することもできなくなります。

関連コラム:
(2016/7/19) 消費税還付スキームは今後困難に、不動産ファンド組成に影響も

この高額特定資産の範囲に、年間200万円以上の金地金等の仕入が加わりました。
金地金は流動性が高く、かつ取引単位や金額の調整も容易という特徴があります。
この点を利用し、免税事業点制度や簡易課税制度の濫用規制を回避する行為が問題視されてきました。
今回の改正により、消費税の潜脱スキームがまた一つ封じ込められると期待されます。

留意点として、年間(課税期間)の仕入合計額が200万円以上の場合に制限対象となります。
従前の高額特定資産は一取引単位で1,000万円以上かどうかで、これよりも厳しい判定です。

なお、製造業者が原材料として金地金等を仕入れた場合は、今回の制限の対象外となります。

2024年4月1日以後に行う金地金等の課税仕入等から適用されます。

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