投資事業有限責任組合の海外投資制限が緩和

2024年は投資事業有限責任組合(LPS)に関する法律や会計規則の改正が相次ぎました。
会計面では、公正価値評価が原則とされた他、監査意見の範囲に係る修正もありました。

更に運用面でも、海外投資規制が緩和されるなどの法改正が行われています。

実質支配する外国株式投資は制限対象外に

LPSには、外国法人の株式等への出資割合を50%未満としなければならいない制限があります。
日本の経済活力の向上が元々の制度趣旨として掲げられているためです。
この出資割合は、海外投資額が総組合員の出資履行金額総額に占める割合とされています。

2021年の法改正により、産業競争力強化法に基づく海外投資規制の特例が設けられました。
LPSが経済産業大臣の認定を受けて行う一定の海外投資は、50%比率規制の適用が除外されます。

更に2024年の改正により、国内事業者が経営を実質的に支配し、または経営に重要な影響を及ぼす外国法人も、50%比率規制の対象となる外国法人の範囲から除外されました。
LPSを活用した海外事業投資の促進を図ったものです。

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暗号資産や合同会社の持分もLPSの投資対象に

その他の改正事項として、LPSの投資対象が拡大しました。
暗号資産及び合同会社の出資持分が対象に追加され、スタートアップへの投資環境が改善されました

なお、LPSは法人格を有しないため、合同会社の社員にはなれません。
よって、代わりに無限責任組合員が合同会社の定款や登記簿謄本に記載されることになります。

今回の法改正により、LPSによる事業展開の幅が広がることが期待されます。

2024年ファンド・投資環境の変化

2024年のファンド・投資環境は、各国中央銀行の政策が転換期を迎えた年となりました。
欧米や豪州などが政策金利の引下げに踏み切った一方、日本は利上げが注目されました。

ファンドに関しては、株高や堅調な不動産市場に支えられて新規案件のご相談も多く、投資意欲の高さを伺わせました。

中小企業のM&Aを税制が後押し

2024年改正項目 影響 内容
事業再編投資損失準備金制度の拡充 株式 株式取得M&Aで損金割合が最大100%に
オープンイノベーション促進税制の延長 株式 25%所得控除のM&A税制が2026年3月末まで延長
暗号資産の譲渡制限で時価評価対象外に 暗号資産 譲渡制限ある暗号資産が時価評価の対象外に
登録免許税、不動産取得税の軽減延長 不動産 個人の住宅用家屋等の軽減税率を延長
× 金・地金等の消費税法制限 仕入200万円で2年間免税事業者等の特例不可に
× 倒産防止共済の損金に制限 全般 解約2年以内の掛金は損金不算入に

2024年の投資関連税制では、中小企業のM&Aを後押しする改正が続きました。
事業再編投資損失準備金制度では、株式取得額の最大100%が損金算入される拡充枠が新設されました。
また、オープンイノベーション促進税制も2026年3月末まで延長されています。

この他、法人が保有する暗号資産の含み益課税も、適用除外となる範囲が拡大されました。

一方、金・地金等の売買や倒産防止共済を利用した抜け穴的な節税には一定の歯止めが掛けられました。

2025年改正ではiDeCoの拠出限度額引上げが注目

来年の税制改正では、以下が挙げられています。
● 企業版ふるさと納税の3年延長
● エンジェル税制の見直し
● iDeCoの拠出限度額の引上げ

iDeCoの拠出限度額の引上げにより、貯蓄から投資への流れは一層加速する可能性があります。
原則60歳まで引出せないなどのデメリットも検討の上、上手に活用すれば資産形成に大きなプラスとなるでしょう。

2024年ファンド・投資税制⑤  ~金地金等を200万円以上購入した場合の制限~

金(ゴールド)の価格がついに1g当たり15,000円を突破し、大きな話題となりました。
その金地金等について、2024年税制改正により消費税法上の制限措置が設けられます。

年間200万円以上の仕入で2年間免税事業者等の特例不可に

現行は1,000万円以上の高額特定資産を購入して仕入税額控除を受けた場合、その後2年間は免税事業者になれません。
また、簡易課税制度を適用することもできなくなります。

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この高額特定資産の範囲に、年間200万円以上の金地金等の仕入が加わりました。
金地金は流動性が高く、かつ取引単位や金額の調整も容易という特徴があります。
この点を利用し、免税事業点制度や簡易課税制度の濫用規制を回避する行為が問題視されてきました。
今回の改正により、消費税の潜脱スキームがまた一つ封じ込められると期待されます。

留意点として、年間(課税期間)の仕入合計額が200万円以上の場合に制限対象となります。
従前の高額特定資産は一取引単位で1,000万円以上かどうかで、これよりも厳しい判定です。

なお、製造業者が原材料として金地金等を仕入れた場合は、今回の制限の対象外となります。

2024年4月1日以後に行う金地金等の課税仕入等から適用されます。

2024年投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱いの改正

「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」が今年に入って2回改正されています。
LPS会計規則やLPS法の改正があったため、これらに対応しました。

LPS会計規則の改正により公正価値評価が原則に

2023年12月にLPSの会計規則が改正され、非上場株式を原則として公正価値評価することが定められました。

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これと整合させるべく、公認会計士協会は2024年6月21日、「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正を公表しました。

主な変更点は以下の通りです。
● 時価の定義を公正価値と明確化
● IPEVガイドライン採用時の公正価値の見積りに係る監査上の留意事項を新設
(改正前は付録8に記載)
● 附属明細書「1.投資の明細」、「3.組合員の持分に関する明細」における期末時価を削除

2024年10月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

LPS法の改正により監査意見の範囲等が修正

LPS法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)も2024年6月に改正がありました。
これに伴い2024年9月17日、今年2回目となる「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正が公表されました。

今回の変更点は主に以下の通りです。
● 監査意見及びその他の記載内容の範囲に関する修正
● 業務報告書に記載された重要な後発事象を財務諸表においても注記
(業務報告書が監査意見の対象外になったため)
● 中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の廃止に伴う修正

1点目について、業務報告書が監査意見の対象外とされ、その他の記載内容に含まれることとされました。
会社法において事業報告書が監査意見の対象外である点と整合的になりました。

  改正前 改正後
B/S及びP/L 監査対象 同左
重要な会計方針
及びその他の注記
監査対象 同左
業務報告書 監査対象 その他の記載内容
(意見範囲の対象外)
附属明細書 会計に関する部分:監査対象
会計に関する部分以外:その他の記載内容
B/S及びP/Lに係るもの:監査対象
B/S及びP/Lに係るもの以外:その他の記載内容

こちらに関しては、2024年9月2日以後開始する事業年度から適用されます。

投資事業有限責任組合は公正価値評価が原則に

投資事業有限責任組合(LPS)の会計規則が改正されました。
改正後は、非上場株式を原則として公正価値により評価すると定められています。

LPSの投資は公正価値評価が原則に

1998年に施行された中小企業等投資事業有限責任組合会計規則が廃止され、2023年12月5日より投資事業有限責任組合会計規則が新設されました。
この間、経済や金融の国際化、IFRSの導入等が進み、海外投資家を一層呼び込むべくファンドの会計基準も変わろうとしています。

会計規則の大きな変更点として、時価とは公正価値であることが明確化されました。
また、改正前の「時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない」という記載が削除されました。

  改正前 改正後
投資の評価 時価、但し時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない 原則として時価
時価の定義 組合契約に定めるところによる 公正価値評価
評価方法 組合契約に定めるところによる

主な評価方法をまとめると、下表のように整理されます。

  評価方法 主な対象者
公正価値評価
(IPEVガイドライン等)
マーケットアプローチ
DCF
コストアプローチ
● IFRS適用会社
● 投資事業有限責任組合
(本改正後は原則的な位置付けに)
旧投資価値評価準則
(経産省モデル等)
直近ファイナンス価格または回収可能価額(※)のいずれか低い方 ● 投資事業有限責任組合
(本改正後は例外的な位置付けに)
金融商品会計基準 取得原価
(時価が著しく下落すれば減損)
● 上場会社(IFRS適用会社を除く)
● 会社法上の大会社
税務基準 取得原価 ● 一般の非上場会社

※ 回収可能価額は簡便的に投資先の状況に応じて取得価額の75%、50%、25%、備忘価額のいずれかとすることができる

これまで多くの投資事業有限責任組合で見られた取得原価+評価減(直近ファイナンス価格または回収可能価額)方式による評価は、例外的な位置付けとなります。

LPSのモデル契約も公正価値評価のみ例示

投資事業有限責任組合の組合契約書には、経産省が2018年に公表したモデル契約があります。
この別紙3「投資資産時価評価準則」において、元々は2つの評価方法が並列的に例示されていました。
取得価額+評価減方式と、IPEVガイドラインです。

今回の会計規則改正を受けて、別紙3に記載される時価評価準則はIPEVガイドラインに準拠した公正価値のみとされました。

公正価値評価を採用しない場合はLP全員に説明及び同意を

公正価値評価は原則とされたものの、強制適用とまではされていません。
経産省のパブコメによれば、例外として従前の直近ファイナンス価格モデル等の採用も認められています。

新規に設立する投資事業有限責任組合において公正価値評価以外の評価方法を採用する場合、無限責任組合員(GP)がその必要性について合理的な説明ができるかどうか整理した上で、全ての有限責任組合員(LP)の同意を得て組合契約に定めることが想定されています。
また、既存の投資事業有限責任組合についても、途中で評価方法を変更することの要否等を検討することが考えられます。
いずれの場合でも、会計監査を行う公認会計士または監査法人に事前に相談することが望ましいでしょう。

改正後の会計規則は、2024年10月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

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